寝れない。明日は大事な日だからしっかり寝ておかなきゃいけないのに、寝よう寝ようと思えば思う程寝れない。布団の中で色々体制を変えてみても寝れない。


「うおっ…!さっぶ…」


ちょっと気分を変えたら寝れるかもしれない、と思って布団を抜け出して縁側に出てみたのだけどそこは予想以上に寒かった。多分風が吹いているせいだ。お陰でますます寝れる雰囲気から遠のいてしまった。何やってんの私。しっかり寝ておかなきゃいけないっつーのに。そう思いながら見上げた夜空は雲一つなくてこれでもかというくらい星が瞬いていた。何だか、ムカつく。


「こんなところで何をしている。早く寝ろ」

「…おめーもな。ヅラ」


ヅラじゃない。桂だ。といつも通りの返事をくれたヅラにほんの少し安心した。夜中だからだろうか。いつもの勢いはなかったけれど。


「ヅラこそ何してんの?私よりアンタの方が早く寝ておかなきゃいけないでしょ」

「俺はちょっと小便に起きただけだ」

「…あっそ」


私みたいに寝れなかったのかな、と一瞬頭を過ったけれどすぐにその考えは捨てた。レディーに向かって小便と言う男だ。明日の事を考えていたら寝れなかったなんて繊細な精神は持ち合わせていないだろう。いや、確実に持ち合わせていない。だってヅラだもの。


「だったら早く部屋に戻って寝なよ」

「そうだな」


言いながらヅラは私の傍に腰を下ろした。ちょっと!今そうだなって言ったじゃん。何で座ってんの。明日、寝不足で体が上手く動きませんとか頭が上手く働きませんとか通用しないからね。そんなの命に関わっちゃうからね。しかしヅラは私の考えなど露知らずただ夜空を見上げている。


「ちょっと、ヅラ」

「明日…」

「……!」

「明日の事を考えて寝れないのだろう」


私の言葉を遮って投げられたヅラの言葉は図星だった。そう、明日。明日の事を考えると不安で仕方がない。明日に備えて寝ておかなくてはいけない、というのは頭の片隅にしっかりあるのに、この夜が明けなければいいのに。明日なんて来なければいいのに。そう考えるととても寝れなかったのだ。まさかヅラに図星を指されるとは思ってもみなかったけども。


「だって危ない事じゃない。絶対怪我する。最悪怪我じゃ済まないかも、しれないっ」

「何を言われようと俺達は行く。この国の為だ。少なくとも俺はそう思っている」

「でも…!」

「何が起こるかは分からん。しかし、必ず帰ってくる」

「ヅラ…」


これだけは約束する、と言ったヅラはこちらを向いていて、その目は酷く真っ直ぐだった。不安など微塵も感じさせない。どこまでも真っ直ぐな。


「侍は果たせない約束はしちゃいけないんだよ」

「分かっている」

「…そっか」

「あぁ」


しばらく沈黙した後「そろそろ寝るぞ」と言って立ち上がったヅラに続いて私も立ち上がる。寝れるか?寝れるよ。そうか、おやすみ。おやすみ。そう交わして部屋に戻って潜り込んだ布団はほんのり温かかった。あぁ、何だか酷く安心する。私って単純かもしれない。そんな事を考えていたら途端に瞼が重くなってきてしまった。本当に単純だ。全ての不安が拭われた訳ではない。心配な事には変わりない。けれど、とりあえず抵抗せずに目を閉じる事にする。



穏やかな夢路へ

20091126

戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -