仕事が終わって家路につくのはいつも深夜。
仕事が好きだから勝手に残って遅くなってるんだけど、今日はいつもより遅くなってしまって。
そのせいなのか何なのか、運悪く酔っ払いに絡まれてしまいました。


「ちょっ!離して下さい!」


絡んできたのは二人組のオヤジ。
これがカッコいいお兄さんなら、迷惑だけど気分は悪くないし腕を掴まれても無理矢理振り解こうなんて思わないかもしれないのに。


「良いだろ少しくらい!遊ぼうよ!お兄さん達と!」

「もうお兄さん、って歳じゃねェけどな!アハハハハ!」


アハハハハ!じゃねぇよ!そんなん言われなくたってその見事にハゲ散らかした頭見れば分かるっつーの!!
笑うところなの?これ?笑って良いのかな?
隙を見て逃げたいけどがっちりと腕を掴まれているせいでそれは出来ない。
酒臭いし足元おぼついてないし完璧に酔っぱらってるくせに力強ぇな!オイ!
酔っ払い、侮り難し…!


「こんな時間に外出歩いちゃってー、あれだろ?今からお勤めなんだろ?」

「同伴するからさー、サービスしてねー!」


…はい?
それって夜のお仕事の話だよね?煌びやかな世界の話だよね?私のどこを見たらそんな世界の住人に見えるの?明らかにスッピンなんですけど!
目がおかしくなる程酔っ払ってんのかよ!
むしろ、こんな時間に出勤する店なんてある訳ねぇだろ!


「違いますから!今から家に帰るんです!だから離して…!」


掴まれたままの腕をブンブン振ってみてもやっぱり手は離れなかった。
性質悪過ぎるんですけど!私が何したっていうの!?
毎日毎日生きる為に必死で働いて、遊ぶ時間ないくらい働いて、こんな時間になるまで働いて…って頑張り過ぎじゃね?私。
それなのにこんな目に合うなんて悲し過ぎる…!


「えっ!?家に招待してくれるの!?」

「マジでか!よし!じゃぁ行こう!」


違ェェェェよ!何聞いてんだよォォォ!!
「家どっち?」とか言ってニコニコしながら腕引っ張んないで欲しいんですけどォォォ!!
何とか穏便に、穏便に、と我慢していた訳だけど。酔っ払いには通用しなかったようです。言っとくけど私は気が短かったりする。ここまで我慢したのを褒めてもらいたい。


「違ぇって言ってんだろうクソハゲェェェェ!!!」

「なっ!客に向かって何て口の聞き方だっ!!」

「だから違ぇって言ってんだろーが!!」


いい加減分かれっつーの!そんなにお姉ちゃんと遊びたいなら最初っから店に行けよ!


「…!ぎゃっ!」


それはいきなりだった。今まで掴まれていた腕が離されて、離されたと思ったら私は突き飛ばされていた。
思いきり打ち付けた背中がかなり痛い。


「色気のねェ声だなー」


そう言いながらオヤジの一人が倒れた私に馬乗りになった。
うん。自分でも思うよ。色気のない声だなぁって。
しょうがないじゃない。仕事仕事で色付く暇なんて私にはなかったんだから。…って、ヤバくね?この状況。


「ちょっ!何…っ」

「悪い子にはお仕置きが必要だからね…」


オヤジは私の上で気味悪く笑って見せた。
え?何これ?私が悪いの?全てはアンタ達が私に声かけて勝手に勘違いしたせいだと思うんですけどォォォォ!!!
ニヤリ、ニヤリ。相変わらずオヤジ達は気味悪く笑っている。
あぁもう何これ?貞操の危機ですか?ここ外なんですけど!いくら人が居ないからって言ってもここは外!道端ですよ!
いや、外じゃなかったら良いって話でもないんだけどね。


「大丈夫、大丈夫」

「そうそう。大丈夫」


何が大丈夫なんじゃボケェェェェ!!
全然大丈夫じゃないんですけどォォォォ!!
助けて!誰か助けて!
そう言いたいのにこんな時に限って声が出せない。
今の状況に恐怖してるせいかもしれない。
でもホントにこのままじゃヤバい…!


「止め…っ!」


抵抗も虚しく、オヤジの手は私の帯に伸びてきて。
オヤジ達は気味悪い笑みを深めている。
そうです。人間、時には諦めも肝心なんですよ。…さよなら、私の貞操。

なんて、諦めかけたその時だった。


「おい。何やってんだ」


降ってきたその声はオヤジ達とは違う人のもので。
視線を上げれば、オヤジの後ろにはタバコを咥えて鋭い瞳で私達を見下ろす男が立っていた。


「なーにやってんだって聞いてんだよ」

「うるせぇな!今良いトコ…!し、真選組!!」

「…婦女暴行の現行犯か?」

「やべっ!逃げろっ!!」

「逃がすかよ。山崎!」

「はいっ!」


私が何を言ってもダメだったのにオヤジ達は簡単に私から離れて、一目散に逃げて行った。
オヤジ達と山崎と呼ばれた人の小さくなっていく背中を見て思う。
アイツ等酔っ払ってたんじゃねぇのかよ。逃げ足速ぇな。
まぁ何はともあれ私の貞操は守られた訳だし。良かった良かった。


「おい」

「え、あ、はい」


呼ばれて視線を前に戻すと私の前にしゃがんでいる相変わらず鋭い瞳と目が合った。
ど、瞳孔開いてるんですけど…!!恐っ!!


「怪我、ねぇか?」

「あ、はい」

「そうか。良かったな」


そう言ってその人はフッ、と笑って私の頭に手を乗せた。
その微笑みは、感覚は、その人の見かけと違ってあまりにも優しかった。


「っしょ。一人で帰れるか?」

「は、はい。家すぐそこなんで…」

「…家の近くで襲われるたァ災難だったな」

「え、まぁ…」


立ち上がったその人を目で追いながら、この人すごく優しい人なんじゃないかと思った。見た目は恐いけど。
助けてもらったのに恐いって思ってごめんなさい。


「油断しねぇで帰れや。アイツ等は俺が責任持って懲らしめておくからよ」


懲らしめるって…!何しようとしてんの!アナタ警察ですよね!?
そう言いたかったのに、言う事が出来なかった。
どこか楽しそうにニヤリ、と不敵な笑みを浮かべたその人に思わず見惚れてしまったから。


「じゃぁな」


そう言ってその人はオヤジ達が逃げて行った方向に駆けて行ったのでした。



深夜に出会うのが変態だけとは限らない



何だか胸がドキドキします。
あの人にとって人助けが義務だという事は分かってる。真選組だもの。
分かってる。分かってるのにドキドキが止まりません。


「あ、お礼言うの忘れた…」



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