私はバタバタと部屋を出た勢いのまま自分の部屋に戻ってきた。
その時、携帯が鳴ってドキリとした。だって鳴ったのは岳兄の指定着信音。しかも電話の。


「…もしもし」

≪名前うるさい≫

「…ごめんなさい」

≪まぁ、起きたの俺だけだから≫


えっ…あんな大声出したのに?ジローちゃんも亮もどんな神経してんだよ。


「で?」

「はっ?」


岳兄の声が背後から聞こえて振り向くと岳兄が立っていた。


「…何でくんの」

「何となく」


嘘吐き。私が心配だったんでしょ。
どんな些細な事でも私の異変にすぐ気付く岳兄。今回は気付かない方がおかしいけど。
何があってもどんな時でも絶対私のところに来てくれるんだ。そして目を見て話をするの。岳兄の真っ直ぐな目を見たら私が嘘吐いたり隠し事出来ないの知ってるから。
私が一人で抱え込んで苦しまないようにしてくれてる岳兄の優しさ。そうやって、昔から助けてくれたよね。私達、幼なじみだもんね。でも今回はさすがに…。


「侑士は寝たフリこいてたな」

「は?」

「侑士に何された?」


何?そこまでお見通し?


「大丈夫だから。言ってみそ?」


岳兄は優しく微笑んでる。


「胸がドキドキするの」

「うん」

「どうしたら良いか分からなくて…」

「うん」

「彼女居るよね」

「うん」


うん、って相槌だけだけどちゃんと聞いてくれてるのが分かる。だって真っ直ぐな目で私を見てるから。


「キス…されたの」


一瞬、怪訝な表情をした岳兄。でもすぐに真剣な顔になった。


「嫌だったか?」


そういえば嫌とは思ってない。フルフルと首を振る。


「侑士…何考えてんのかな?」

「さぁな。俺は侑士じゃねぇから分かんね」


確かに…。アイツの頭ん中分かる方がすごい。


「気まずいな…」


どんな顔すれば良いの?どう接すれば良いの?分からない。


「名前のファーストキスは俺だから!」

「…だから?」

「俺達、普通じゃん?な!」


岳兄はニッと笑って爽やかに言い放ったけど、何それ。意味分かんない。気にするなって事かな?でもそれ小さい時の話でしょ。何だか笑える。
ぷっ、と私が噴き出すと岳兄も笑って「名前の気持ちに正直に向き合え」と言葉を残して部屋を出ていった。
正直に向き合え?本当に岳兄はお見通しだ。でもね岳兄…。やっぱり私、軟派な奴と彼女居る奴は好きになりたくないよ。




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