「……んー?」


トントンと頬に感覚があって、ばんやりとした意識で目を開けるとそこには微笑む侑士の顔。


「おはようさん」

「おはよ、さ……ん」

「俺ら朝練やから、もう起きるけど寝過ごすなや」

「んー」


朝練って…今何時なんだろう。考えを巡らそうとするけど、夢現な私の頭は働かない。


「フッ…可愛ええな名前」

「んっ…」


唇に柔らかいものが触れたような気がした。一瞬だったけど熱が伝わって…。夢にしてはリアルな感覚。


「……う、わっ!」


その感覚を意識した時、一気に覚醒して飛び起きた。


「…て、あれ?」


周りには乱れた布団だけで誰も居なかった。そういえば侑士が朝練って言ってたっけ。って、いやいや!
ブンブンと頭を振って必死に今の考えを否定した。それが現実ならヤバ過ぎる。夢なら夢で問題ありだけど。
感覚があってすぐ起きたはずなのにみんなは居ないし、夢だよね…?
いや、そう信じたい。だって、侑士とキスしてたから。今、妙に唇が熱い。

一通り葛藤した後、時間に余裕が無くなっている事に気付いて下へと向かった。
階段を降りていると今から家を出るであろう制服に着替えたみんなが見えた。


「あっ、名前。おはよう」

「おはよう。長太郎」

「寝坊しなくて良かったな」

「ピヨー、寝癖」


長太郎に笑顔を向けられて幸せに包まれながら少しだけ跳ねたピヨの髪を手櫛でとかす。


「なんや、朝からいちゃこいて」


その声に思わずドキリとした。


「…おはよ」

「俺のもして?」

「あんたのはいつもそんなんでしょ!」


侑士はクックッと喉を鳴らして「元気やな」と私の頭をクシャッと撫でた。良かった、普通だ。


「おら!遅れるぞ!」


亮に急かされ外に出て行ったみんなを私も続いて外に出てお見送り。


「名前も早く学校行けよー」

「はーい!いってらっしゃーい」


ピョンピョンと跳ねながら手を振る岳兄は可愛い。ふざけ合いながら歩く背中を見送って、おばちゃんに挨拶をした後、私は自分の家に戻る。
いつも通りの流れに、やっぱり夢だったんだと思った。声聞いただけでドキリとしたなんてバカみたい。
何でそんな夢みたんだろう。欲求不満なのか…私。
はぁと溜め息を吐いて、自分に呆れながら制服に着替えて、どうせ夢なら違う人が良かったと不純な事を考えながら学校へ向かった。




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