朝、少し重い頭とダルい体を起こした。隣には侑士が寝ていて夢じゃなかったんだと思った。
これは、この前とは違って夢じゃなくて良かったって意味だけど。
侑士の寝顔に思わず顔が綻ぶのが分かる。変に清々しい気分になってみたりして。本当…変なの。
少し寝顔を眺めて、二度寝出来るくらい時間に余裕はあったけど、侑士を起こさないようにとベッドを降りて部屋を出た。


「岳兄…」


部屋の前にはウロウロして明らかに挙動不審な岳兄が居て、私に気付くとピタリと止まった。何となく気まずい。気まずいって言うか、岳兄なら全部気付いてるんじゃないかと思うと気恥ずかしい。


「おぅ、おはよ」

「おはよ」

「あの…大丈夫かよ。具合」

「平気…ありがと」


岳兄、聞きたくても聞けなくてもじもじしてる感じする。何かが起こるのを見越してたのかもしれない。だって、侑士はみんな心配してたって言ってたのに心配してくれてる割には侑士以外誰も部屋に来なかったんだから。侑士が本当はみんなに言ってなかったのかもしれないし私の行動に呆れて部屋に来なかっただけかもしれない。なんて、ね。本当の事は聞いてみないと分からないけど。


「あのさ…」


私が言いかけたその時だった。


「追い返さなかったんだな。侑士」


岳兄は真っ直ぐな目で私を見て口を開いた。


「それが名前の答え?」

「…うん」

「そっか…」


その言うと切なそうな顔をして岳兄は目を逸らした。
侑士に彼女が居て軟派な奴っていうのは変わらない事実。付き合う事になったとかお互いの気持ちが通じ合ったとかそんなんじゃない。侑士にとっては気紛れかもしれない。


「泣かされるなよ」


そう言って優しく頭を撫でた岳兄。分かってるよ。辛い思いをする事くらい。でも私は気持ちに気付いてしまった。だからね、泣く必要なんてないんだよ。自分で選んだんだから。平気だよ。


「そろそろ準備すっか」

「そうだね」


今日は朝練がなかったようで岳兄としばらく話してたら学校の時間が迫って来た事に気付いた。
岳兄はみんなが居る部屋へと戻って、私は侑士の居る部屋へと入った。
部屋に入ると侑士はまだ夢の中で普段と違って寝顔はかなり可愛い。…気がする。
恋をするとこんな風に感じてしまうんだろうか。はぁと溜め息をついてベッドの側で侑士と目線を合わせるとパチリと目が合った。


「あっ、お、おはよ」

「…おはようさん」


侑士はフッと笑うと私の頭を引き寄せてチュッとキスをした。


「ちょっ!何すんの!」

「何って…おはようのチューに決まっとるやろ」


決まってるって…。これって決まり事なのだろうか。
私の顔は熱くて侑士はそんな私を見て妖しく笑っていた。


「そや。体、平気か?」

「う…ん?」

「気持ち悪ない?腰痛ないか?」

「ちょっちょっとぉ!!」


侑士の言葉にますます顔が熱くなる。事実ながらもさすがに恥ずかしい。


「ハハッ!冗談やて」


侑士は愉快そうに笑うとクシャクシャと頭を撫でた。侑士との関係は変わらない。変わったのは私の気持ち。
でも、この関係に名前を付けるなら何て名前なんだろう。




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