岳兄の部屋に着くと侑士は私をベッドに寝かせた。岳兄の部屋と言ってもここにみんなは居ない。実はみんなが集まってるのは客間だったりする。多人数が入るには狭いこの部屋はほとんど使われていなくて実質、今は客間が岳兄の部屋みたいなものだ。
「岳人に話してくるわ」
そう言うと侑士は部屋を出ていった。
ベッドや机やいろんな物が置かれているのに使われていないせいか、この部屋はなんだか寂しい。いや、部屋が寂しい訳じゃない。一人にされた事が…侑士が出ていった事が寂しい。
側に居て欲しい。抱き締めて欲しい。侑士に。今、強くそう思ってる。
何でこんな事を思ってしまうんだろう。考えてしまうのはきっとお酒のせいだ。お酒は理性を失わせる飲み物なんだ。私はちゃんと私だけを見てくれる人を好きになりたい。だから侑士はダメなのに。
「大丈夫か?気持ち悪くないか?」
「ゆー、し…」
カチャリ、と部屋に入って来たのは片手にお茶のペットボトルを持った侑士だった。私を覗き込んだ侑士の顔が優しくて、胸が鳴った。岳兄が来るんじゃないかと思っていたから少し驚いたけど、また侑士が来てくれた事が嬉しかった。
「みんな心配しとったわ」
「ごめ…ん」
「謝る事やない。大丈夫やで」
そう言って侑士は優しく頭を撫でてくれた。もう…ダメかもしれない。
―名前の気持ちに正直に向き合え―
岳兄の言葉が頭に響いた。正直に、向き合う。
「岳人のがええか?隣居んのは」
「ゆう…し、が…良い」
屈んで目線を合わせてくれた侑士に、お酒のせいで紡ぎ紡ぎの言葉だけど素直な気持ちを口にした。そんな私の言葉に侑士は目を丸くしていた。
彼女が居る男なんて好きになっても報われない。軟派な男なんて遊びかもしれない。だから嫌だった。侑士はこの二つを備えてるんだから。
本当はどこか惹かれていたのに気持ちにブレーキをかけていて、きっと侑士にキスをされた時、心の奥にあった気持ちが呼び覚まされてしまったんだ。
「反則や…それ」
「んっ」
侑士の顔が近付いて唇が触れた。三回目のキスはお酒の味。なんて。
「そんな事言われたら、止められへん」
そう言って侑士はベッドに上がって私の上に覆い被さった。そして何度も何度も角度を変えて深いキスをした。
「んっ、ゆーし」
「名前」
唇を離すと首筋に舌を這わせながら侑士の手は服の中に入ってきて胸を触ってきた。
「ちょ、やっ」
「あかん?」
「は、初めて、だか、ら」
これから行われるであろう行為は何となく見当がついている。でもそれは私にとって初めての行為で、本当にしてしまうのかと思うと少し怖かった。
「こうゆう事すんの初めてなん?」
「う…ん」
「…メッチャ嬉しいわ」
侑士は微笑んで唇にキスをした。
「優しくしたるから」
初めては本気で好きな人とそう思っていた私。
そんな私の“初めて”の相手は侑士になった。
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