呆気ない程滞りなく合同練習は終了した。仁王からの接触は特になかった。まるで何事もなかったかのように。現地で解散した後、ミーティングの為に一度学校へ戻る。少し前ならミーティングを他の奴等に任せて帰っていたかもしれない。でも今は、名前が逃げないと言ったから。その言葉が妙に安心感を与えていた。帰れば必ず名前が居ると、そう思わせた。
「……名前?」
ミーティングを終え、自宅の自室に戻れば、そこにあるはずの名前の姿を見付けられない。名前を呼んでも返事はない。我ながら殺風景な部屋。最低限の家具しか置いてない。そんな部屋の真ん中に置いてあるベッドへ歩を進めれば、ベッドの真ん中にまるで猫のように丸まって眠る名前の姿があった。猫のようなんて、名前によく合った比喩だ。気まぐれなところ。何を考えているか分からないところ。
そっとベッドに腰かけて、眠っている名前の短い髪をすく。手触りのいい髪だ。今の短い髪も似合っているが、名前ならきっと伸ばしても似合うだろう。髪を伸ばしてほしいと頼んだら伸ばしてくれるだろうか。
「んっ……」
「名前?」
「…けい、ご?」
「ああ」
「…おか、えり」
「…ああ、ただいま」
名前の口からおかえりだなんて初めてだ。今までそんな状況にはなった事がない訳だが。寝惚けているからだろうか。少し笑って俺を迎える名前を堪らなく愛おしく思った。
「起こしたか?」
「んーん。へーき。今、何時?」
「もうすぐ20時だな」
「そんなに寝ちゃったんだ」
起き上がって、伸びをしながら欠伸をする名前はまだ眠いようだ。そんな姿も愛おしいと思う俺はきっともう名前から離れられない。
「名前」
「ん?」
「好きだ」
「…知ってる」
「本当に、好きなんだ」
押し倒して見つめた名前の瞳には俺が映っていた。
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