名前は変わった。前はどんな立場の人間が話しかけても必要がないと判断すればとことん無視を決め込んでいたのに。無視というか無関心だったように思う。自分から行動を起こすような事は決してしなかったのに。それなのに。


「景吾」


ハッとして振り返る。声の主は名前だった。観客席からコート内のベンチに居る俺を見下ろしている。変わったとは思うものの、相変わらず表情から感情は読み取れない。何を考えているか分からない。どうしたと返事をすれば「迎えが来たから行くわ」と返って来た。


「名前ちゃん帰るんか」

「ええ。お先に」

「気ぃ付けてな」

「ありがとう。さようなら」


ひらひらと手を振る忍足に少し頭を下げて名前は背中を向けた。正直驚き過ぎて二人のやり取りを見ながら固まってしまった。ありがとう?名前が?それに、わざわざ俺に声をかけてから帰るだなんて。


「ええ子やな〜名前ちゃん」

「…ああ」


名前の口から謝辞なんて初めて聞いたかもしれない。むしろ俺以外とまともに会話をしているところを初めて見た。ような気がする。もちろん社交界ではある程度話をしていたが、大体はただ笑みを張り付けて相槌だけを打っていただけだった。そんな名前が。
チラリと仁王を探す。呑気に試合を観戦している。まぁ今日は合同練習だ。王者立海の一員がそんな日に他の事にかまけてるなんてありえないだろう。そうは思っても、お前の名前に対する想いはその程度だったのか、と少し苛立つ。その程度で、そんな気持ちで、それなのに名前はお前といて変わってしまった。俺よりお前といる事を選んだんだ。俺の方が、名前をこんなにも愛してるというのに。


「景ちゃん、顔怖いでぇ〜」

「…うるせぇ」

「名前ちゃんに嫌われてまうで」

「……もう嫌われてんだよ」


その声は酷く小さかった。認めたくはない。でも分かっている。俺は、間違えたんだ。だから、取り戻して、やり直して、本当に名前を好きだって事を分かってもらいたい。俺を、見て欲しい。俺だけを見て、欲して、俺の事しか考えられない程名前に俺を刻み付けたい。アイツを思い出せない程に。
さっき別れたばかりだというのにどうしようもなく名前に会いたい。




戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -