名前を目で追っていたら名前と目が合った。目が合って嬉しかった。こっちを見てくれた事。俺を探してくれた事が嬉しくて心が躍った。


「…!」


名前はきっと今まで見た中で一番柔らかく笑って、何かを言った。声は発していないだろう。ただそれが名前に見惚れてしまって何て言ったのかは分からなかった。


「…名前?」


その時の笑顔が幻だったかのように、名前はすぐに無表情になった。まるで初めて会った時のような、あの時の誰も寄せつけようとしない名前のようだった。


「おい、仁王。大丈夫かよぃ」

「ん?おう別に」

「…集中しねーと怒られんぞ」

「分かっとる」


分かっては、いる。ただ、今日ここに名前を誘わなければこんな事にならなったのではないかと思う。そうすればまた明日からも平穏な日々が続いて、毎日楽しく名前と居れたはずなのに。
…本当に?名前と跡部が婚約をしているのは紛れもない事実であって、名前の様子を見れば触れられたくない部分だったのだろうと予想が付く。ただ遅かれ早かれ、俺と名前が一緒に居ればこうなっていたのかもしれない。相手はあの跡部、だ。だからどうした?跡部だから何だ?相手が他の誰であろうと名前が望んだものなのか。


「仁王君!行きますよ」

「おう」


今すぐにでも名前の元へ行きたい。名前はどうしたいんだ、と名前の口から答えが聞きたい。色んなしがらみがあって名前はここまで来たんじゃろう。あの時、俺がだから何だと言ってやれば名前は笑っていられたのか?
俺一人で考えた所で答え何か出ない。それなら俺がやるべき事は決まっとる。


「私は…仁王君の味方ですから」


歩きながら、まるで俺の心を読み取ったかのような柳生の言葉。ありがたくもあり照れくさくもあり。でも今はただただ心強いと思った。




戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -