景吾の部屋を出て私は駆け出した。逃げるように走って走って景吾の家を後にした。
愛してるって何?私が雅治を思うように景吾は私を思ってる?どうしたら良いの?どうすれば良いの?私はこれからどうなるの?頭の中には次から次へと疑問が浮かんでくる。きっと景吾はこのまま引き下がってなんかくれないだろう。何かが起こる。それが何かは分からないけど、何かが…。
どれだけ走ったかは知らないけれど、気が付けば大きな通りに出ていてそこには家の車が待機していた。私が呼んだ記憶はない。景吾が連絡を入れてくれたんだろう。
運転手に導かれるまま車に乗って私は家に帰った。車に乗ってる間も家に帰ってからも私の頭の中は色んな考えが巡っていていつの間にか朝を迎えていた、なんて嘘みたいな本当の話。最近は時間の流れが早過ぎる、そんな気がした。
外が明るくなって、色々と考えている中でも学校に行かなければ、その前にシャワーを浴びなければと頭が働いた。そこでハッと気付く。私は雅治の電話に出なかった。かけ直す事もしなかった。学校に行ったら雅治に会ってしまう。何て、言えば良いの?普通はどうするの?何て言うの?正直な事は言えない。分からない、どうしよう。雅治が怒っていたらどうしよう。
答えの出ないまま時間は刻々と過ぎて、学校へ向かう体は今までにない程に重く感じた。教室に行けば顔を合わせてしまう。それまでに考えをまとめなければ…。そう思っていたのにそんな時間はなかった。たくさんの生徒でごった返した昇降口。たくさんの人が居るはずなのに私は簡単に、銀髪を見つけてしまった。


「ま、雅治…おはよ」

「ん、おはようさん」


近付いた雅治に咄嗟に出た挨拶。少し声が震えた気がした。素っ気なく返って来た挨拶に胸の奥がグッと苦しくなって雅治は怒ってるんだ、どうしよう、どうしようと思いながらまとまっていない考えの中で口を出たのは「寝ていた」という言い訳だった。


「ええんよ。気にしなさんな」


そう言って雅治はポンポンと私の頭を叩いた。優しくて温かいその感覚にまた胸の奥がグッと苦しくなる。でも心地良い。
嘘を吐くのは難しいようで簡単。その簡単な事が私には難しい。私は雅治の隣に居る為にまた嘘を吐く事になるんだろうか。いつか全てを話せる日が来るんだろうか。
色々と考える事はある。だけど雅治が笑ってくれるから全てがどうにでもなる気がした。




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