俺は嫌な奴だろう。自覚はしている。それでも、今日が、この瞬間が待ち遠しかった。


「名前は俺の婚約者だ」


絶望のどん底に落とされたような、名前はそんな表情をしていた。俺に気付いてからみるみる顔が強張っていったが、今の一言が完全に止めを刺したのだろう。紛れもない事実だというのに。それ程仁王にこの事実を知られたくなかったという事だろう。それにしても名前は、随分と表情が豊かになったもんだ。これも仁王の影響なのだろうと思うと、胸の奥でどす黒いモノが渦巻くようだった。


「そういう訳だ。名前は連れていくぜ」


仁王の側に、名前を置いておく訳にはいかない。二人が一緒に居るところをこれ以上、見たくはない。きっと俺の中のどす黒いモノがどんどん大きくなってしまう。
名前の手を引く。手が、酷く冷たく感じた。まるで血が通っていないみたいだ。「名前」呼びかけても反応はない。ただ一点を見ているだけ。
完全に背を向ける前に視界の端で捉えた仁王は、ただ黙って立っていた。じっと名前の後ろ姿を見つめている。呼び止める事も引き留める事も、しない。俺は、こんなにも名前に執着して、愛していて、欲していて、それなのに、名前を変えたのは俺ではなくて。


「くそっ」


思わず手に力が入った。びくり、とわずかに名前が震えた気がした。
今日という日を心待ちにしていた。名前と仁王の関係を壊してしまいたくて。きっとそれは叶っている。少なくとも今まで通りの関係を築いていく事はないだろう。これで良い。これで、良い、はずなのに。俺の気持ちは、晴れなかった。




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