今まで、幸せ、と感じた事なんてなかったと思う。だからそれがどんな気持ちか知らなかった。だけど、雅治と出会ってから感じるようになった温かい気持ちとか不思議な感覚とか今、雅治と話ながら感じているこの気持ちもこれが幸せって気持ちなんじゃないかと考えると、妙にしっくりきて雅治の言葉に思わず「私も…何か、幸せ」なんて答えていた。


≪んじゃ、俺と名前は今同じ気持ちなんじゃな≫

「同じ、気持ち…?」


だとしたら、雅治も温かくてチクリと刺すような胸の痛みを感じているって事だろうか。


「雅治も温かくてチクチクした痛みを感じてるって事?」


私はいつの間に思った事をすぐ口に出すようになったのか。ただ知りたいという気持ちが強かっただけだろうか。


≪…生憎、チクチクした痛みは感じとらん≫


少し間があって雅治は答えた。雅治が感じてる幸せにはこの痛みは含まれていないという事。それは私にとってこの痛みは幸せという気持ちではないと教えられた事になる。


「じゃぁ感じた事ある?どんな時に感じるの?」


質問責めにして雅治を困らせているかもしれない。それでも聞かずにはいられなかった。この胸の痛みの正体を知りたかった。


≪あー…、んー…ある。うん。ある≫


しばらく唸った雅治は例えば、と前置きをして話し始めた。


≪昨日じゃが、俺の席に女が集まってきた時あったじゃろ?≫

「あぁ…」


凄く睨まれてウザいと思った記憶がある。


≪あの女達がそんな気持ちだったんじゃなか?嫉妬しとって≫

「へぇ…」

≪チクチクなんて優しいもんじゃ済まんかもしれんけど。あの場合≫


最後の方は声が小さくて聞こえなかったけど、私は嫉妬してるって事になる訳?何に対して?だとしたら今日私を呼び出した女達も同じ気持ちだったって事になる。でも…それとは何か違う気がする。いや、ただあの女達と同じ気持ちっていうのが嫌なだけかもしれないけど。


≪あと後ろめたい事してる時に感じるんじゃなか?≫


雅治のこの言葉でまたチクリと痛みを感じた。後ろめたい事…。


「婚約者が居るのに…」


あぁ…きっとこれだ。今日言われた言葉。
意味は分からなくても意外にも私の中に深く残ってしまっているらしい。ならば雅治に告げたらこの痛みはなくなるのだろうか。…いや、それは出来ない。
雅治が隣に居てくれなくなる事を恐れて、今日景吾が私の元に来る前に私が景吾の元へ走ったんだから告げてしまったその行動の意味がなくなる。
雅治の隣に居たい。隣に居て欲しい。それなら答えは一つしかない。


「雅治…ありがとう」

≪ん?あぁ。何か分かったんか?≫

「うん」


この痛みの正体と痛みをなくす方法が。


「分かったよ」


私は景吾に話さなければいけない事があるという事も。




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