あの日、景吾の家から逃げ出した日。あれからしばらくが経った。だけど一向に景吾からの連絡はない。私にも、自宅にも、だ。
景吾が私の言葉を受け入れてくれたのだと思いたい。思いたいのだが、連絡がないのだ。これは明確な答えを貰っていないという事。事実上、私達はまだ婚約をしているという事になる。
家柄故、婚約解消という話は当人達だけの問題ではなくなってくるのだが、当人達が合意の上で離婚解消となれば事はスムーズに進むはずだ。だからこそ景吾の答えを聞くべきなのだが、今はまだ自分から連絡を入れる勇気がない。気持ちは決まっているはずなのに、もしかしたら、流されてしまうかもしれない。そう考えると、怖い。


「名前、聞いとるか?」

「えっ、ごめん。何?」

「…何じゃ。考え事か?」

「うん、まぁそんな感じ」

「そうか。一人で考えててもどうしようもならんくなった時は俺に言いんしゃい。話聞くけぇ」


言える訳がない。こんな話。だけど、ありがと。と目を細めて笑う雅治に出来る限り笑ってみせる。見透かされてしまわないように。
私は相変わらず雅治の隣に居て、放課後は部活の練習を観に行く。そんな日々を送っている。一緒に居るといつか見透かされてしまうんじゃないかと不安に思うけど、だけど、隣に居たいから…。


「で、さっきの話なんじゃけど」

「うん?」

「週末に他校と合同練習があるんじゃけど観に来るか?」

「合同練習?」

「おう。試合もやるみたいじゃからのぅ。名前が観に来てくれるならちっとは頑張ろうかと思っての」

「週末、か」


いつもの週末なら景吾に呼ばれ、景吾の家へと行っていたのだけど今週末は、きっと、ない。何より、雅治が他校と試合をする姿を観てみたい。練習してる姿や部員達と試合をする姿は見慣れているけど、他校と試合をしている姿は観た事がないから。


「でも観に来ても、大丈夫なの?他の学校居るんだし」

「大丈夫じゃよ。場所はここじゃし。何も問題なかよ」

「そっか。じゃぁ、応援に来るね」

「おう。正確な時間決まったら教えるけぇ」


言って笑いながら雅治は私の頭に手を乗せた。あぁ、幸せだな、と思う自分が居る。幸せなんて気持ちついこの間まで知らなかったくせに。
こんな、温かな気持ちをこれからもずっと感じる事が出来れば良いのにと思った。




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