赤也に釘を刺すという目的は達成されずに部活が終わった。赤也の元へと行くと、俺に気付いた赤也は怯えた表情を見せて「もう邪魔しないんで!勘弁してクダサイ!」と叫んで逃げて行ってその後も赤也はことごとく俺を避けていて何も言う事が出来なかったから。あん時、向けた視線が結果的には釘刺せた事になんたんかもしれんからええか。
雑談しながら着替える連中に「お先」と言葉を投げかけて足早に部室を出る。後ろから丸井の「早ぇ!何か用事でもあんのか?」なんて言葉が聞こえたけど特に用事があった訳ではなかった。敢えて言うなら名前に電話でもしようと思ってたからで学校を出てしばらくした所で携帯を取り出すとアドレス帳から、苗字名前を探して通話ボタンを押した。
プルルッ、と機械音が聞こえると妙に胸が高鳴った。初めて電話するからなんじゃろうか。コールの回数が増えるのに比例して胸の高鳴りが増してこれで名前が出んかったらそん時のショックは大きいかもしれん。用事って言っとったから出ない確率の方が高いんじゃけど。
こんな事を考えていたらコールがプッ、と途中で切れて名前の声が聞こえた。


≪もしもし≫

「おぅ。俺じゃ」


俺じゃ、って何なん?ディスプレイに名前出とるだろうから誰だかは分かるじゃろうけど、何様なん。俺。


≪ふふ。どうしたの?≫


名前が笑ってくれたから何か安心して「今、部活終わったんじゃけど…用事、終わったん?」なんてまた何様発言をしてしまった。いや、正直何を話すかとか考えとらんくて勝手に言葉が出た。電話だから緊張しとるんかもしれん。


≪あぁ、うん。あの…ごめんね。せっかく誘ってもらったのに二日も連続で…その、途中で帰って≫


名前は俺の何様発言を気にも止めず謝罪の言葉を口にした。本当に申し訳なさそうに言うもんだから相当大事な用事だったんかなって慌てた理由とか深く追求するのは止める事にした。


「ええんよ。気にせんで」

≪…ありがとう≫


さっき、詮索しようと思った事を深く反省した。俺の自己満足の為の行為であって名前を知りたいが為の行為でもあるけど、それもやっぱり自己満足って事になる訳で詮索する事に対しては名前と最初に話した時の事を考えたら今更かもしれんけど。今は、もしそれで嫌われたら困るから。
前はもっと上手く立ち回れてた気がする。恋ってこんなにも人を惑わすんじゃな。そんでかなり幸せになれる。
今だって側に居る訳じゃなくて電話で話しとるだけなんに幸せって自覚する程幸せ。


「フッ…幸せじゃな」


ポロリと洩れた本音に。


≪私も…何か、幸せ≫


なんて言葉が返ってきて、柄にもなく叫んでしまいそうじゃった。
幸せじゃぁーー!ってな。いつか叫んでしまう日が来るかもしれんけど来たとしたら多分それは俺と名前の気持ちが通じ合った日。…来て欲しいかもしれん。
そんな事を考えながら見上げたオレンジ色の空はいつもより綺麗に感じた。




戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -