俺が名前を見つけたのは体育館の裏だった。ちょうど女が名前に掴みかかってて手を振り上げたところ。予想通りの光景に思わず溜め息が出る。何しとんじゃアイツ等。
「調子乗んじゃねぇよ!!」
止めに入ろうと歩き出した時、女の手は振り下ろされた。
「っ!やめっ!」
「っ!!」
しかし振り下ろされた手は名前を叩く事はなかった。寸前で名前が女の手首を掴んだから。
「い、痛っ…」
「叩かれる覚えはない」
名前は女達を睨み付けとって冷たい目をしちょる。屋上で話した時と、同じ目。
「話をする為に来たんだよ。話は終わり」
「お、覚えときなさいよ!」
パッと手を離すと女達は怯えたような顔をして俺に気付かず走り去っていった。全く…相変わらず気が強い。
「名前」
「雅治…」
俺は名前に近付いて声をかけた。名前は驚いたように俺を見てはにかみ笑いを浮かべた。
「強いのぅ」
「見てたんだ。護身術習ってたからさ」
「ほぅ…」
気が強いって意味だったんじゃけど。しかしながら護身術なんて、自分の身は最低限守れるようにって事じゃろ?きっと他にもたくさん教え込まれてきたんじゃろうな。
「雅治、部活は?行こう」
「待ちんしゃい。名前」
「…どうしたの?」
歩き出した名前を俺は後ろから抱き締めた。抱き締めずにはいられなくなったから。
「もう一人じゃないんよ?俺が守っちゃるけぇ、無理はせんで?」
「……ありがと。雅治」
名前はそっと俺の腕に触れて呟いた。ただ笑っていて欲しいから名前の笑顔を守りたい。もう嫌な思いはして欲しくないんよ。
「んじゃ行くかの」
「うん」
名前を離して代わりに手を握ってコートまで歩いた。幸せじゃなぁなんて思いながら。コートに行くと部活は始まってて、俺に気付いた真田が「仁王!何をしとるか!」とわざわざ走って怒鳴りに来た。まぁ覚悟はしとったけど。
「すまん。あっちで話聞くけぇ」
名前まで怒鳴られとるみたいで嫌じゃったからコート内に真田を連れて行こうとした時だった。
「すみません。雅…仁王君は私を助けてくれたんです」
「何だと?」
「仁王君が来てくれなかったらどうなっていたか分かりません。だから仁王君を怒らないで下さい。遅れたのは私のせいです」
「そ、そうなのか…」
名前の物怖じせず主張する態度に真田は言葉を飲み込んで顔をしかめていたが「遅れた事に変わりはない」と倍のメニューをするように告げてコート内に戻っていった。
「名前のお陰で長い説教聞かずに済んだぜよ」
「ふふっ。良かった」
俺が助けられてどうすんじゃ。正直、嬉しかったけど。
「んじゃ行ってくる」
「うん!頑張って」
倍のメニューを課せられたのに今、すごく幸せだと思った。
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