部室に向かう俺の足はそりゃぁもう軽かった。鼻歌なんて歌ったりして周りから見たら超ご機嫌って感じじゃろうな。実際、機嫌は良いが。今日は名前と何をしようかと考えるだけで楽しかったから。
「よぉ!仁王!」
部室に入ると既に丸井とジャッカルが来ていた。軽く挨拶を交わして着替えていつもなら部活が始まるまでダラダラと話をするところじゃけど今日はさっさとテニスコートに向かった。出来る限り名前と居たかったから。
でもその思いに反して辺りを見渡しても名前の姿はなくてボールを弄びながら時間を潰した。
そんなに時間がかかる用事なんじゃろか。名前の来るのが待ち遠しくてしょうがない。今の俺、相当ヤバいじゃろ。名前の事しか考えられんくなっとる。いや、今思えばそれは昨日からか。
「あれ?仁王先輩。苗字先輩は?」
ふと聞こえた声にボールから視線を移すとキョロキョロと辺りを見渡している赤也が居た。まるで名前が居ないのをおかしいとでも言うような素振りで。今日も俺が名前連れてくると思っていたんじゃろうか。まぁ実際誘っとるけど。
「さっきそこで見たんで、来てると思ったんスけど」
俺の言葉を待たずに言った赤也に思わず眉を寄せる。
「居ったんか?」
じゃぁ、用事はもう終わったって事じゃろ?
「…のぅ赤也」
「何スか?」
「名前は一人じゃったか?」
「いや、何人か居たッスよ。女」
名前には悪いが、連むような奴は居ないはずじゃ。いや、今までの名前を見てれば分かる事。
「どこに居った」
「体育館のっ!って仁王先輩!?」
赤也が言い終わる前に俺は走り出しとった。
「部活始まるッスよー!!」
そんな赤也の言葉ももう遠くに聞こえてただ名前の元へ走った。きっと俺のせい。いきなり注目を集め過ぎたんかもしれん。思い違いかもしれんのにもう名前には辛い思いも嫌な思いもさせとうない。俺は名前を守りたい。
だから、ただ走った。
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