誰かと手を繋いで歩くなんて久し振りだった。久し振りと言ってもそれは小さい頃の話で大人ばかりのパーティーで挨拶まわりの為に母に手を引かれていただけだけど。
こんな記憶しかない私には雅治が何の為に手を繋いで歩いているのか分からなかった。手を繋がなくても、手を引かれなくても私は雅治について行くのに手を繋ぐ必要なんてないんじゃないかと思ったから。だから雅治の答えによってはその事を伝えようと思った。
そしたら雅治は「繋ぎたいから」と簡単に答えて、しかも「それ以外の理由はない」なんて言うからやっぱり雅治は変な奴だって思った。私の常識では計り知れないんだもの。って言っても私の常識と世間一般の常識はかなりかけ離れていると思うけど。
何で繋ぎたいと思ったの?こう雅治に聞きたかったけど繋いだ手が温かくて、胸の奥もじわじわと温かくなって初めての事にただ黙ってしまった。また今度聞けば良いよね。明日も明後日も雅治はこうして一緒に居てくれると思うから今はこの温もりを感じていよう。
その後、雅治と一緒に食べた昼食は何故か美味しく感じた。初めて誰かと一緒に食べたからかな。雅治は簡単に私の初めてを埋めていく。


「職員室寄ってから行くから」


時間はあっという間に過ぎて雅治との約束の時間になった。一緒に行こうと誘ってくれたけど、提出物があった私は後から行く事を伝えた。


「そか。んじゃ、先行くけぇ」

「うん」


雅治はヒラヒラと手を振って歩いて行って私は職員室へと向かった。
雅治と一緒の時間はすごく短く感じた。少しの間だけなんて言ったけどこの時間がずっと続けば良いのに。叶わない願いだと知っていながら切に願ってしまった。


「苗字さん。ちょっと良いかしら」


ちょうど職員室から出たところで声をかけられた。顔も名前も知らない女が三人。


「話があるの」

「私はない」


すると私を睨み付けてチッと舌打ちをした。


「良いから付いて来な」


面倒臭い。呼び出される覚えなんてない。いきなり現実に引き戻された。そんな気がした。




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