何故執着するか、なんて決まっている。名前が欲しいからだ。名前を愛しているからだ。
だから、誰にも渡さねぇ。


「何や、景ちゃんえらいご機嫌やなぁ」

「あ?」

「ええ事でもあったん?」

「…ねぇよ」


ふーん、と大して興味がなさそうに呟いた忍足に練習に戻るよう促した。
良い事があったか、なんてとんでもねぇ。起きたのは最悪な事態だ。名前が俺を拒否した。あの、従う事しか知らなかった、ずっとずっと変わる事のなかった名前が自分の意志で。
名前に対して情も何もなければすぐにでも婚約は解消に至っただろう。そもそも情がなければこの婚約はなかったのだが…。だからこそ簡単に納得なんて出来る訳がねぇ。
名前とあの男、仁王雅治との間に何があったのかは知らねぇが仁王によって名前は変わった。だとすれば俺だって名前を変える事が出来るはずだ。
仁王が名前にどんな気持ちを抱いているのかなんて知らない。知りたくもねぇが名前を思う気持ちは誰にも負けねぇ。


「ククッ。待ってろよ、仁王雅治」


俺と名前の関係を知ったらどうなるか、見物だな。




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