「おい、名前。聞こえてんのか?アーン?」
「こんばんは。景吾さん」
背後に居た彼に向き直り機械的な挨拶を返す。なんて気が短いんだろうこの人。
「何回言ったら分かんだ。景吾で良い」
くるりと向きを変えて歩き出す彼の後を追う。
「何ですぐ部屋に来ねぇ」
何言ってんだ。こいつは。あんな状況で誰が入るか。なんて、心の中で悪態をついても口には出さない。
「行きましたけど、取り込み中だったようなので」
「ククッ。遠慮しねぇで入りゃぁ良いじゃねぇか。お前は俺様の婚約者なんだからな」
見えないけど、意地悪く笑った顔が分かる。婚約者だろうが何だろうがあの状況で入る人が居るなら教えて欲しい。
今、目の前を歩く俺様は私の婚約者今日私を呼び出した本人、跡部景吾。
彼は私とは正反対。財閥の息子という立場を最大限に利用してるし自由に自分の道を進んでる。まぁ興味はないけど。私には彼が婚約者だって事以外何もない。私は隣に居れば良いんだ。
彼の後をついて辿りついたのは彼の部屋。その部屋は私の部屋よりも遙かに広い。必要最低限の家具しか置かれていないから殺風景。それは私の部屋も同じだけど。
「名前」
「んっ」
部屋に入るなり景吾はキスをしてきた。これは始まりの合図。あっと言う間にベッドへと追いやられる。シーツは乱れていてほのかに温かいような気がした。
「ククッ。今日も鳴いてもらうぜ…」
私を見下ろして景吾は妖艶に微笑んでいた。私にはこの時間が苦痛だった。他の女を抱いた後に私を抱く景吾の気が知れない。むしろ何故こんな事をするのか分からなかった。
「…ハッ…ここ…気持ち良いだろ?」
気持ち良くない。
「こんなに濡れてんじゃねぇか」
でも体は与えられた刺激に正直なようだった。私の体は景吾しか知らない。初めは痛みを感じていたけど、今は痛みすら感じない。されるがまま、景吾に体を預けるだけ。何が良いんだろう。でも私には選択権がない。だから…耐えるしかないんだ。
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