何だかんだ言っても私は新鮮な気持ちで一杯だった。


「教えてやる、か」

「苗字」

「…雅治」


振り返るとジャージに着替えた雅治がこちらに向かってくる。隣に誰かを引き連れて。


「待たせたの」

「誰?」

「こいつは柳生じゃ。俺のパートナー」

「こんにちは」

「どうも…」


眼鏡をかけてて雅治と同じくらいの身長で雰囲気の柔らかい人。
でも何だろうこの感じ。私は何かを感じた。何かは分からないけど。


「んじゃ練習してくるけぇ」

「では行きましょう」


そう言うと二人は足早にコートに行ってしまった。


「雅治…?」


二人の背中を目で追って練習風景を眺めた。
テニスの事は分からないけど雅治は生き生きしている。そんな感じがした。
そんな雅治を見てると何かに夢中になるのも良いなぁと思えてくる。
休憩になったのか雅治がこっちに向かってくるのが見えた。


「見とったか?」

「あ…うん」


やっぱり何か違う。何だろうこの感じ。


「ねぇ、アナタ雅治じゃないでしょ」

「えっ?」


無意識に出た言葉だった。


「何故じゃ?」

「何となく」


そう、何となく。ただそれだけだった。
ふぅと溜め息をついた目の前の雅治は困ったように私を見つめている。


「いつから気付いとった?」


声の主は目の前の雅治ではなくて頭を掻きながら近付いてくる雅治のパートナー。
眼鏡を外した彼はまさしく雅治だった。私を見透かす琥珀色の瞳。


「雅治達が着替えてきた時」

「参りましたね」

「失敗じゃな」


二人は自分の身なりを整えながら苦笑いをした。


「えぇぇぇえ!!先輩達何入れ替わってたんスか!?」

「おぅおぅ…赤也にはバレんかったんに。お前さんを驚かせたかったんじゃが…」

「でも気付いたのは何となくだから」


雅治はフッと笑って頭を撫でた。


「二回も俺のペテンには引っかからんか」

「でも誰かになりきるなんて凄いよ」


少なくとも私には出来ない。雅治は何でこんな事してくれるんだろう。




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