今日は天気が良い。サボるには絶好の日和。授業を抜け出して屋上に向かう事にした。
「良い風じゃ…ん?」
扉を開ければ心地良い風が吹き抜けていく。しかしそれと共に流れてきた匂いに思わず眉をひそめた。
先客が居るのかと匂いを辿れば、そこには壁に寄り掛かり胡坐をかいて座る一人の女。
「苗字…?」
そこに居たのは同じクラスの苗字名前だった。彼女は財閥のお嬢様。ベリーショートの髪型に鋭い目付き。おまけに常に無表情で無愛想。お嬢様って響きには程遠い感じがするんじゃが。教室では誰と話す事もなくいつも一人。もちろん俺も話した事はない。たまに姿が見えなくなる事があると思っておったがこの光景には正直驚いた。だから思わず声をかけていた。
「何?」
「財閥のお嬢様が不良ごっこかのぅ…」
苗字の素っ気ない態度にからかうつもりで発した言葉。じゃがそれが苗字癇に障ったらしい。
「アンタには関係ない。どっか行けよ」
見れば鋭く俺を睨み付けちょる。面白い。こんな顔をするなんて知らなかった。
俺は苗字に興味が湧いた。
「すまんすまん。そんなに怒りなさんなって」
なだめながら苗字の隣に腰を下して、頭を撫でようと頭に手を伸ばす。
「触んなっ」
「いっ…!」
しかし伸ばした手は思い切り叩かれてしもうた。予想以上に相当怒りを買ったらしい。
何じゃ。可愛げないのぅ。なんて女じゃ。
「お前さんちと気が強過ぎやせんかのぅ…。お嬢様つーのはもっとこう潮らしく…」
俺はわざと苗字を挑発するような言葉を並べた。その時だった。
「アンタ…喧嘩売ってんの?」
そう言って苗字は俺の襟首を掴んだ。睨み付ける目はさらに鋭く冷たい。しかし、どこか寂しげじゃった。
「…すまん。少し悪ふざけが過ぎたようじゃ。手を離してくれんか」
苗字は手を離すと座り直し視線を前に向けた。そして煙草に火を付けた。
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