「変な奴」


そう言って苗字は笑った。普段の表情からは想像出来ない程の笑顔で。
その笑顔が脳裏に焼き付いた。そして不覚くにもその笑顔に、落ちた。
もっともっとお前さんを知りたい。もっともっと笑って欲しい。心から思った。
授業の終わりを知らせる鐘が鳴った時、苗字は俺の腕を引いて歩き出した。ただ「来て」と言って。掴まれた個所が異様に熱を持っている気がする。
そして引っ張られるまま行き着いたのは保健室だった。


「失礼します」


ガラっ、と開けられた扉。生憎、保健医は不在。他に生徒も見当たらない。


「そこ座って」


椅子に座るよう促すと苗字は棚を漁り始めた。


「手、出して」


そう言うと向かいの椅子に腰掛け苗字は俺の手に湿布を貼った。さっき苗字に叩かれたところ。


「さっきはごめん。叩いたりして」

「気にせんでええのに…」


律儀な奴じゃと思った。元はと言えば俺が巻いた種。苗字が気にする事はない。況して痛みなんか無かった。
そう言ってやれば良いのに、小さい手、綺麗な指。ただ見とれているだけの自分が居る。




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