私は耳を疑った。どういう事?意味が分からない。
仁王はただ悪戯に笑っている。
「俺が何て呼ばれてるか知っちょるか?」
「何」
「ペ・テ・ン師」
そう言って仁王はニヤリと笑った。
「わざとなり」
「わざ、と…?」
仁王は相変わらず笑っている。
この時、私の怒りは一気に消え去った。消え去ったと言うより呆れてしまって怒りを忘れていた。
私の表情を見る為にあんな事を言って私に叩かれまでして、本当に何なんだこの男は。
思わず笑った。久しぶりに。
「ははっ、変な奴」
―キーンコーン
その時、鐘の音が授業の終わりを知らせた。
「来て」
ただ一言、そう言って私は仁王の腕を取った。
「何じゃ?」
「いいから」
そして不思議がる仁王の腕を強引に引いて歩き出す。
他人なんかどうでも良い。ずっとそうだった。それなのに私は今、仁王の腕を取って歩いている。どうしてだろう。一人で良いって、決めたのに。
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