幸せな帰り道じゃった。初めて話した時とは比べもんにならんくらい明るい声色で、クスクスと控えめな笑い声を漏らして家に着くまで名前は電話に付き合ってくれた。
フラフラとゆっくりとしたいつもの歩調を更に緩めて、少しでも長く、少しでもたくさん名前と話せるように歩いっとたのにいつもより家に着くまでの時間が短く感じたのはきっと名前と話してるのが楽しかったせいじゃ。電話だから表情は分からん訳じゃけど、今笑っとるんじゃろうな。と考えれば胸が高鳴ってすごく幸せな気持ちになって
電話を切るのが惜しかった。ずっとずっとこんな幸せが続けば良い。そう思いながら余韻に浸って電話を切った後、何をしてても幸せなままじゃった。


「姉ちゃん、風呂空いた」

「んー…ん?」


風呂上りリビングで雑誌を読んでいた姉に声をかけた。するとやる気のない返事をした姉は少し俺に向けて雑誌に戻した視線をすぐにまた俺に向けた。眉間にシワを寄せた怪訝な表情のおまけ付きで。


「雅治…顔、何かニヤけてて…気持ち悪い」


家族に気持悪いと言われるくらい俺の顔はニヤけとるらしい。普段見せない表情だからか、本当にすごくニヤけているのか…。どっちにしろ理由は分かってる。


「そか?今の姉ちゃんの顔も十分気持ち悪いぜよ」


そう言ってリビングを出ると「雅治ーーー!!」と姉の怒声が聞こえた。いつもなら後が怖いから聞き流すところじゃけど今は幸せなこの気持ちだけで何とでもなる気がした。あぁ、もう恋の力って偉大じゃな。でもあんまり浮かれとると真田にまで怒られそうじゃけ少し自重するべきかもしれん。
そんな事を思いながら部屋に入ってベッドへと寝ころんで枕元に置いてあった携帯を開く。カチッ、とボタンを押して発信履歴を見ればそこには名前の名前。それを見るだけでまたじんわりと幸せな気持ちになった。それと同時に、名前は今何しとるんじゃろう。と頭を過ぎった。ほんの数時間前まで話していたのにまた電話したらウザがられるじゃろうか。メールにしとくべきか…でも声が聞きたい。明日、学校に行けば会えるのに…。
こんな俺に、思わずフッ、と笑みがこぼれる。俺は名前が好きで仕方ないらしい。好きだからたくさんの時間を共有したい。好きだから少しでも名前を近くに感じたい。加速し出したこの気持ちを止める方法なんて知らん。
それと名前ならまた笑って電話に出てくれる。そんな妙な自信があって、本能の赴くまま俺は発信ボタンを押した。




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