「愛、してる…?」

「あぁ。俺は名前を愛してる」


何それ。私はそんなの知らない。愛してるなんてそんな気持ち。
だから何なの?と言い返してやりたかった。それなのに目の前で真剣に、あまりにも真っ直ぐ景吾が私を見ているから言葉にする事が出来なくてただ息を呑んだ。
私はこの時、後悔した。景吾に手を引かれ戻ってきた事を。だって、見事になくなったチクチクとした気持ちがまた私を襲っているから。あの時、無理やりにでも手を振り解いて帰れば良かった。


「誰よりも名前を愛してる。だから側に居て欲しい」

「け、いご」


そう言いながら景吾は一歩一歩私に近付いて、私はそんな景吾の雰囲気に圧されて一歩一歩後ずさった。側に居て欲しい。そう思う事が愛してるという事なんだろうか。だったら私は…私は…。
景吾から目を逸らさず、ぐるぐると必死に思考を働かせている最中、とんっ、と背中に感覚があって振り向けばそこは扉だった。もちろんもう後ずさる事なんて出来ず、景吾との距離が詰まる。目の前まで近付いた景吾は私の左右に手をついて逃げ場を塞いだ。もう、逃げられない。


「名前…分からねぇなら教えてやるよ。愛するって事がどういう事か」


改めて見つめた景吾の瞳は真っ直ぐで、青く、綺麗だった。その瞳で呪縛にでもかけられたかのように身動きが取れなかった。


「愛してるぜ、名前」

「けっ…!」


だんだんと景吾の顔が近付いてくる。ダメ、ダメなのに顔を逸らす事が出来ない。そして、唇が触れてしまいそうになったその瞬間。携帯が鳴った。私の携帯だ。眉間に皺を寄せ「チッ」と舌打ちをして景吾は私から少し離れた。景吾は不機嫌そうだけど、私にしてみたら天の助け。本当に助かった。あのままなら私は流されて、今よりも強く後悔する事になっていたかもしれないから。


「出ろ」


景吾に促され、私は鞄を漁った。未だ鳴り続ける携帯を手に取ってディスプレイを見る。


「……っ」


やっぱりここに戻ってきたのは間違いだ。あのまま帰っていれば、この着信に出る事を戸惑う事なんてなかったのに私はどうすれば良いんだろう。ねぇ…雅治。




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