岩泉さんを尊敬している

「あー!名前ちゃん!体育着似合うね!」

「……」

「可哀想だから止めとけ」


年に一回、体力作りの名目で全校マラソン大会という行事がある。こんなに人が居るのに私は及川さんに見つかってしまった。無視を決め込んでも及川さんはめげない。一緒に走ろうか、と話しかけてくる。


「結構です」

「無理しちゃダメだよ?」

「程々に走ります」

「俺頑張るからさ!今年は岩ちゃんに勝ってみせる!」

「無理だと思います」

「何で!」

「私は今年も岩泉さんが一位だと思いますよ。岩泉さん、頑張って下さい」

「おう。任せとけ」


岩泉さんは凄い。何をやっても一番になる。本当にカッコイイ。まるで戦隊物のヒーローみたいだと思う。私は何事にも本気で負けず嫌いで一生懸命な、そんな岩泉さんを尊敬している。
こういった運動系のイベントは運動部の名誉がかかっていて、やっぱり男の人達は燃えるらしい。私は正直どうでもいい。でも少し、バレー部のみんなには頑張ってもらいたいと思ってる。バレー部凄いと言われるのはやっぱり嬉しい。


「じゃあ始めるぞー。よーい、スタート!」


パーンッ!とスターターピストルが鳴らされてマラソンがスタートする。私と少し話した後、岩泉さんは先頭を陣取ると言って先頭へ向かって行った。多分、もう走り出してるんじゃないかと思う。私が居る後方はまだ進まない。及川さんは岩泉さんに勝つと言っていたにも関わらず私の隣に居て、周りの色めき立つ女子にひらひらと呑気に手を振っている。


「岩泉さん行っちゃいましたよ」

「いーの。後で逆転するし。もうちょっと名前ちゃんと居たいなって」

「もう。いいから行って下さい」

「ちぇ。冷たいなー。じゃあまた後でね」


後方の集団はやっと動き出した。動き出した方向へ及川さんを追いやる。何だかんだ言ってやっぱり血が騒ぐらしい。及川さんはすんなり離れていった。他の生徒を掻き分け、早々に及川さんの背中は見えなくなった。


「おー!名前〜、ファイトー」

「松川さんも頑張って下さい」

「名前さん、お先ッス」

「お先でーす」


私より後方にいたらしい松川さんと金田一と国見が私をあっさりと追い越していく。気付けば周りは女子だけになっていた。ぐんぐんと離れていく背中を見ながら私も走る。男女は体力も筋力も何もかも違う。だけど、私もバレー部の一員として少しでも彼等と肩を並べたい、と思う。
そうして何とか私はゴールした。私がゴールをした時、何人かの女子が既にゴールしていて、ゴール脇で座っていた。私も同じようにゴール脇へ座って待機する。続々と女子がゴールする中、早くも男子の先頭が見えた。やっぱり一番は岩泉さんだった。男子は二周、女子は一周を走れば終わりだ。


「岩泉さーん、ラスト一周〜」

「おうっ」


私に気付いた岩泉さんは拳を掲げて、颯爽と走り去っていった。まだまだ余裕らしい。その姿もカッコイイ。何人かの女子がキャーと色めき立っていたけど、きっと岩泉さんは気付いてない。その後少しして及川さんが見えてきた。岩泉さんに逆転すると言ったのはあながち嘘ではないらしい。頑張ればいけそう。


「及川さん、頑張って」

「!!」


私の声援が聞こえたらしい及川さんは私を探して、見つけて、真剣なその顔をヘラッと笑顔に変えて手を振ってきた。でも足を止める事はなく、そのまま走っていく。岩泉さんの時と比にならないくらいの女子が色めき立った。こういう姿はカッコイイのにな、と思う反面、ちょっとモヤモヤした。絶対どっちも及川さんには言わないけど。
女子が全員ゴールしてしばらく、男子の先頭が戻ってきた。相変わらず岩泉さんが先頭でそのままゴールをした。岩泉さんから少し遅れて及川さんもゴールして、バレー部全員が上位でゴールするという好成績でマラソン大会は幕を閉じた。凄く、誇らしい。


「名前ちゃん見っけ」

「お疲れ様です」

「今年も岩ちゃんに勝てなかった」

「私と話なんかしてるからですよ」


解散となって、大勢がぞろぞろと移動する中、また及川さんは私を見つける。


「でも名前ちゃんのお陰で去年よりいい順位だったからいっか」

「私は何もしてませんよ」

「頑張れって言ってくれたじゃない」


お陰で頑張れた、と言った及川さんは笑顔だった。ちょっと反則だと思った。


「で、名前ちゃんは何位だったの?」

「私ですか。三十四位です」

「…え?三十…えっ?」

「女子は真面目に走る人少ないし、伊達に毎日みなさんのランニングを自転車で追っかけてませんよ。あれ結構辛いんですよ」

「す、凄いね名前ちゃん」


部活でも私の順位の話になり、みんなに褒められた。私を何だと思ってたのか知らないけど、岩泉さんに褒められたのは素直に嬉しかった。何故か及川さんが我が物顔で自慢していたのには腹が立ったけど、及川さんがカッコ良かったから今日は言わないでおこうと思う。


 

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