マネージャーと考える金田一

自分に好意を抱いている人がいるというのは、相手が誰であれ多少は嬉しいんじゃないだろうか。と俺は思っていた。だって俺は俺を好きだという子がいれば嬉しい。だから、そう思っていた。名前さんに会うまでは。名前さんは及川さんという超が付く程モテる人に好意を抱かれている。毎日毎日及川さんの猛アタックを受けている。及川さんが名前さんに話しかけない日はないし、及川さんが名前さんを追いかけていない日はない。キャプテンとマネージャーという間柄があるかもしれないけど、及川さんの態度を見ればそれだけじゃないってのは分かる。俺達が入部した頃はそうでもなかったのが、誰が見ても及川さんは名前さんが好きなんだと分かるようになったのは、及川さんが少し前に付き合ってた彼女と別れてからだ。そんな及川さんを名前さんは軽くあしらう。


「名前ちゃんは今日も可愛いねっ!」

「……」

「ムシされてやんの。ざまぁ」

「ムシはいいけど、その顔は止めよっか!名前ちゃん!可愛い顔が台無しだよ」

「ムシはいいのかよ。お前やべーな」


今日のようにあしらうことすらしない日も多いけど。名前さんは及川さんだけではなく、先輩達に凄く気に入られている。ただそれを自慢することも、そうしてもらいたくて媚びるようなことも一切ない。きっと名前さんはいつでも真っ直ぐで裏表がないから。それに可愛い。普段はあまり笑わないけど、笑った顔とか。別に俺が名前さんを好きだとかそういう話ではない。名前さんが俺の中学の先輩でマネージャーをしてくれてたら、影山との間を取り持ってくれたんだろうかって。


「名前さんは、もし及川さんと岩泉さんが揉めたら仲裁しますか」

「…しないよ。面倒だし」

「即答すか」

「あの二人なら勝手に折り合い付けるでしょ」

「…そっすね」

「何?国見とケンカでもしたの」

「いや、そういう訳じゃ…」


名前さんならどうするんだろうって聞いてみたかった。だけど例えが悪かったかもしれない。名前さんは俺をじっと、まるで俺の考えを読み取るように真っ直ぐ俺を見る。


「ケンカってさ、相手とのコミュニケーションが不足してるからしちゃうんだよね」

「コミュニケーション、すか」

「及川さんがよく言うじゃん。言いたいことは言えって。相手とちゃんと話をしないから、相手をちゃんと見てないから、すれ違いとか、勘違いが生まれて、それが亀裂になっちゃうんじゃないかなって」

「すれ違い…」

「言わないと分からないことの方が多いよ。まぁ完全に分かり合うのは無理だと思うけどね。うちの場合、そういう役割を担ってるのが案外及川さんだよね」

「なる、ほど」

「何か名前ちゃんに呼ばれた気がしたんだけど!」

「呼んでません」


言わないと分からないことの方が多い。たしかにそうだ。俺は影山が何を考えて、ああしていたか聞いたのか。俺達がどう思っているか言ったのか。ただ感情をそのままぶつけてただけじゃないか。どうしてそう思っているのか伝えもせずに。


「金田一、仲直りしたいなら、ちゃんと話して和解すればいいよ。それが違うと思うなら、今後に活かせばいいと思う。男の子だから拳で語るのもアリじゃない?」

「…ウッス!」

「え、何?随分物騒だね。何の話?」

「及川さんには関係ないです」


ピシャリと言った名前さんは及川さんに絡まれている。影山とのことだなんて一言も伝えていないけど、名前さんは分かっているんじゃないかと思った。名前さんはカッコいいな。俺よりも小さくて華奢な女の子なのに。だから名前さんは好かれるんだろうか。先輩達はきっとそういう所をたくさん知っているんだろう。俺よりも一年も二年も長く一緒に過ごしているんだから。そんなことを考えながら及川さんと名前さんのやり取りを眺めていた俺に「金田一」と言いながら向き直った名前さんは少し小声で言った。


「偉そうなこと言ったけど、私は感情出すの苦手だし、多分口下手だから、上手くいかない」


苦笑いした名前さんに胸がきゅんと音を立てた。及川さんから逃げるように離れていった後ろ姿を眺めながら、俺は及川さんのライバルになるつもりはないし、言わない方がいいこともあるんだと思った。


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