マネージャーと矢巾と狂犬

名前が週一〜二回通ってるクラスがある。毎回よくやるよ。と思いながらも、何かあったら先輩達にどやされるのは絶対俺だから毎回付いていく。俺も毎回よくやるよな。


「名前、もういいんじゃね?」

「何が?」

「だってアイツ迷惑そうだし、無駄じゃん」

「私が勝手にやってるんだしね」


止めようと諭したのは何度目だろうか。それでも名前は止める事はなく、別に誰に頼まれた訳でもないのにこうやって毎回アイツの所へ行く。どんなに嫌な顔をされてもめげないで。名前メンタル強過ぎ。


「京谷」

「んだよ。またお前か」

「ん」


慣れたように名前は京谷の前の席へ座る。最初の頃はかなり邪険にされていたが、京谷も慣れたのか諦めたのか口で言う程態度は悪くない。俺は教室の外から見守る。あんなに近付いて噛み付かれたら堪らない。


「ハミチキのさ、甘辛味が出てたね」

「もう食った」

「どうだった?」

「ありゃ邪道だな」

「そっかー」


及川さんが見たら泣きそうな光景。名前からこんなに一生懸命話しかけるなんて。名前なりに京谷との距離を縮めようとやってるんだろうけど。


「今度、練習試合あるんだよ」

「だから何だよ」

「おいでよ」

「お前も懲りねーな」


普通の会話はしてくれるようになったけど、部活の話はダメ。先は長いように思う。勝手に来なくなった奴にここまで時間を割く必要はないのに。どうして名前はこんなに。


「誰の差し金か知らねーが俺は」

「違うよ。私が勝手にやってるだけ」

「あぁ?」

「京谷の自主性に任せてるよみんなは」

「だったら」

「私が来て欲しいんだよ。みんなとバレーやってほしい」

「……」


俺だったらこんなに言われたら嬉しくて堪らないけど。この子俺の事好きなんじゃねとか思っちゃうけど。京谷はそういうタイプではない。なかなか折れない。そんな京谷を相手に名前もめげない。もう根競べの域。


「京谷が部活に来るまで私は来るからね」

「なっ、てめっ」

「はぁ?」

「じゃーね」


京谷の頭をわしゃわしゃと撫でて名前は満足そうに立ち上がった。俺だってされた事ないのに!羨ましい!京谷は耳まで真っ赤にして名前の姿を追っている。ちょっと嬉しそうじゃねーか。


「京谷お前さ」

「何だ金魚のフン」

「…名前に構って欲しくてわざとやってんじゃねーだろうな」

「んな訳ねーべや!」

「どうだか。正直俺はお前が来ても来なくてもどっちでもいい。どっちかっつーとライバルが減ってラッキーて感じだな」

「ケッ」

「いつまでも名前の好意に甘えんなよ」


そう言い捨てて名前を追いかける。上機嫌そうな背中に追いついて隣に並ぶ。名前は何を考えてんだ。


「何でアイツの頭撫でたの」

「触り心地良さそうだなって思ってて」

「あのね名前。そういうのはね異性にやっちゃダメ。俺達思春期だから!勘違いしちゃうから!」

「そういうもん?」

「そうだよ!じゃあ俺にもやってよ!」

「何で?ヤダけど。今やっちゃダメって言ったばっかなのにどういう事」


京谷はいいのに俺は嫌とはこれ如何に。花巻さんともスキンシップ多め。もう高校生だぞ。どうなってんだよ。


「及川さん可哀そうだなー」

「…何で及川さん」

「だって好きな子が他の男とベタベタしてたら面白くねーべ」

「…及川さんにも同じような事言われた」

「ほらな。そういうのは及川さんにやってやれよ」


名前はちょっと想像したらしい。凄く嫌そうな顔をした。少しくらい顔を赤くしたり、恥じらったりしろよ。名前らしいけど。正直、及川さんにそういった事をする名前は全然想像出来ない。


「ちょっと想像出来ない」

「だろうね」

「そんな事より、今は、どうやったら京谷が部活に来てくれるか」

「何でそんな拘るの」

「京谷だってバレー部の一員なんだから全員で全国行きたいじゃん」

「俺は試合に出れればそれでいーよ」

「まぁ私の仕事だしね。矢巾は矢巾で頑張って」


そんな事と言われた及川さんには同情するけど、名前にとっては部活の優先順位が何よりも高いのだろう。名前がマネージャーで良かったな。俺達の事、こんなに一生懸命考えてくれるんだから。


「そんぐらい及川さんの事も考えてあげればいいのに」

「だから何で及川さんなの」

「え〜?何何?呼んだ〜?」

「…チワッス」

「……」


ビビった。まさか及川さんに会うなんて。及川さんの間の悪さは天下一品だな。名前が凄い顔で固まっている。まさか及川さんに会うとは思ってなかったんだろう。俺もだけど。


「名前ちゃんに呼ばれた気がしたんだけど」

「…呼んでません」

「そっかー。気のせいか。それよりさ、今日一緒帰ろ」

「嫌です」

「あはは!相変わらず即答だねー。アイス食べて帰ろーよ。行かない?」

「…い、行き…ます」

「アーンってしてね。あ、及川さんがしてあげようか?」

「やっぱ行きません!」


こんなにあしらわれても及川さんはめげない。ある意味名前とお似合いなんじゃないかと思う。さっきの名前と京谷のやり取りが思い出される。立場はさっきと違うけれど。


「及川さーん!俺も行っていいですかー?」

「何でよ!名前ちゃんとのデートだよ!?君は名前ちゃんの保護者かな?」

「行きませんよ私」

「えー!い、今なら名前ちゃんの大好きなマッキーも付いてくるよ!」

「デートじゃないじゃないですか」


こういう二人のやり取りを見るのは嫌いじゃない。名前が及川さんに接するように、京谷が名前に根負けする日が来るだろうか。とりあえず俺は見守る方向で。


 

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