マネージャーと矢巾

名前は及川さんが嫌いらしい。他の先輩との扱いの違いに何故なのか聞いた事があった。名前は一言、チャラいからと答えた。だからだろうか。男気溢れる岩泉さんにはかなり懐いている。花巻さんとも仲が良い。そんな名前と二年になって同じクラスになった。自慢じゃないが俺もチャラさには自信がある。女の子の友達も一杯居る。休み時間は大体女の子としゃべってる。しかし、名前に嫌われる事はなく、クラスメイトとして話す機会が増えて、以前よりも仲良くなった気がする。何で俺は嫌われないのだろう。HRが終わって席を立った名前に一緒に行こうと声をかけて、部室に向かいながら率直に聞いてみる事にした。


「ねぇ名前」

「んー」

「名前ってさ、及川さん嫌いじゃん」

「うん」

「即答!」

「だって本当の事だし」


潔い程の即答である種の清々しさを感じる。ただチャラいって理由だけでここまで嫌われるだろうか。だったら俺もその部類なのだから嫌われているはずなのに。


「俺は?」

「矢巾が何?」

「好きか嫌いか」

「何それ」

「だって俺だってチャラいよ。チャラいから及川さんの事嫌いなんだよな」

「うん。ってか自分で言うんだ」

「まぁね」

「んー、普通」

「チャラいのに?」

「クラスメイトだからかな」


クラスメイトだから、か。そんな理由?及川さんはクラスメイトじゃないにしても先輩な訳で、あんなに可愛がられているのに邪険にするなんて俺にはちょっと分からない。そんな話をしながら歩いていると道すがら及川さんを見つけた。可愛い女子達に囲まれて楽しそうにしている。羨ましい。チラッと名前を見ればその様子を見て顔を歪めていた。そしてチッと舌打ち。どんだけ嫌いなんだよ。


「怖ぇよ」

「何が?」

「舌打ちしたろ」

「してた?」

「してた」

「気付かなかった」


無意識で舌打ちって相当嫌いだろ。早く行こ、と言って及川さんを無視するように名前は歩を進める。その顔は本当に嫌そうで嫌そうで。でも、こんな顔どっかで見た事あるな、と思った。前に付き合ってた彼女が、俺の女友達に嫉妬して俺に怒っていた時の。


「名前」

「何?」

「名前さ、及川さんの事好きだろ」

「は?」

「他の女子と仲良くしてるからヤキモチ妬いてんじゃねーの」


名前は立ち止まって俺を見上げた。顔を赤くして、うるさいバカ!名前って案外可愛いなぁ〜ってのを期待したんだけど、予想に反して名前は俺を睨み殺す勢いで見ていた。怖い。


「矢巾コロス」

「は!?えぇ!?」


そう吐き捨てて部室へ歩いて行った。名前待って!と声をかけても無視。あ、これいつも及川さんがやられてるやつだ。


「名前!名前、ごめん」

「うるさい黙れ」

「名前怖いよ〜。可愛い顔が台無しだよ?」


振り返る事なく名前は部室に入っていった。後を追うように部室に入って、名前に声をかけても名前はスルー。自分のジャージを持って着替えるために出ていった。既に部室に来ていてその様子を見ていた花巻さんがどうしたのかと聞いてきた。


「及川さんが女子に囲まれてるのを見て、ヤキモチ妬いてるんじゃないかって言ったんスけど」

「あちゃー。だから機嫌悪かった訳ね」

「違うんスかね」

「そうだと思うぞ。だけど多分、認めたくないんだろ」


可愛いよな名前、と言った花巻さんは笑っていた。それを知っていて笑っているという事は、花巻さんは名前を女として好きな訳じゃないんだろうか。俺にはちょっと分からない。あんなに仲良くなれてたらキスの一つや二つしたいと思う。あわよくばその先も。先輩達にとって名前は妹みたいな存在なんだろうか。及川さんを除いて。


「さて、名前の機嫌取ってくっか」

「何かすみません」

「いーよ。任せとけ」


俺が体育館に行った時、名前はいつも通りの様子で花巻さんと話していた。言葉通り花巻さんは名前の機嫌を取ってくれたらしい。さすが仲良いだけある。また機嫌を損ねると悪いから俺は話しかけないでおこうと思う。


「みんなー、お疲れ〜」

「ウーッス」

「名前ちゃんもお疲れ」

「……」

「…名前ちゃんどうしたの?」


事情を知らない及川さんはその日名前にフルシカトをされて、それを見た花巻さんは苦笑いをしていた。発端は及川さんな訳だけど、すみません。及川さん。


 

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