駅を出て、少し歩いた所にある居酒屋に入った。明日は土曜日ということもあり、店内は賑わってたけど、運良く、たまたま空いたらしい四人掛けの席に案内された。赤也くんと私は向かい合って席に着く。


「ラッキーだったね」


そう声をかければ、「ウッス!」と元気な返事が返ってきた。赤也くんは体育会系なのだろうか?メニューを眺めている赤也くんをちょっと観察してみる。さっきも思ったけど、やっぱりイケメンだと思う。近付きがたい感じでもないし、さぞモテるんじゃないだろうか。癖っ毛も愛嬌があって可愛い。きっと正義感があって、たまたま私を見つけて助けてくれたんだろうな。と考えてるところで赤也くんと目が合った。


「?どうしたんスか?」

「いや、赤也くんって何かスポーツとかしてるのかなって」

「テニスしてるッス!」

「そっか〜。元気いいからスポーツしてるのかなって思って」


好きなの頼んでね。と言っている私はちゃんと笑えてるだろうか。私の目を真っ直ぐ見る赤也くんにドキドキしてしまって。年頃の乙女みたいだな、なんて。相手の一挙一動にドキドキする年齢なんてとうに過ぎたはずなのに。ここが薄暗い居酒屋でよかった。きっと私の赤くなった顔には気付かれていないだろう。


「では、」

「かんぱーい!」

「ふふ。乾杯!」


名前さんは何飲みます?やっぱり最初は生かな!そうッスよね!と言う会話を経て、頼んだビールで乾杯する。自分も飲みつつ赤也くんの様子を見る。グイグイ飲んで、プハーッ!っと、良い飲みっぷりだなぁと感心する。若さゆえだろうか。頼んだ食べ物も唐揚げ、ポテト、焼鳥と高カロリー、高タンパクの物ばかりだ。全部食べたら胸やけしちゃうなぁ。と考えて、私は気持ち程度にサラダと枝豆を頼んだ。


「赤也くん、野菜も食べて、ね!」

「……ウス」

「ふふ。嫌い?」

「好きでは…ないッス」

「あはは」

「でも、先輩達にもよく言われるんスよ。努力はしてますけど…俺は肉の方が好きッスね!」


彼は正直だ。取り分けたサラダと差し出せば、あからさまに嫌な表情をした。でも、そんな所も彼の魅力なのだろうと思う。正直で嘘の吐けない所。きっと色んな人に可愛がられてるのだろう。
飲みながら話に花が咲いて、やはり彼は年下だというのが分かった。大学三年生だそうだ。小学校の頃からテニスを続けている話。超えたくても超えられない凄い先輩がいる話。家族の話。友達の話。たくさんの話を活き活きと話してくれた。うん、うん、と相槌を打ちながら話を聞いているだけだったけど、私も楽しい気持ちになってくる。きっと一緒に過ごしたら楽しいんだろうな、と。


「赤也くんはさ、」

「はいっ」

「彼女はいないの?」

「…!」


話もお酒も大分進んでいるのに、ここまで赤也くんから女性関係の話は一切出て来なかった。女性で話に出てきたのはお母さんとお姉さんくらいで。興味本位で聞いてみただけなのだけど、赤也くんは一瞬ギョッとして、少し考え込んでいる。何を悩んでいるんだろう。まさか、どの子が彼女なのか考えているとか…?多分赤也くんは同時に何人もの女の子と付き合うなんて器用なことは出来ないと思う。ちょっと失礼かもしれないけど、すぐバレそう…。


「いないッスよ。俺、モテないッスから」

「嘘だぁ。モテそうだよ。カッコイイもん」

「かっ…!いや、ないッスないッス。何人かと付き合ったことはあるッスけど、いつも、私とテニスどっちが大事なのって言われて…」


今は誰とも付き合ってないッス。と言った赤也くんは照れたように笑った。テニスと私どっちが大事なの、なんて…確かに彼女として構ってもらえないのは寂しいかもしれないけど、少し話を聞いただけでもこんなにテニスが大好きだって、頑張ってるって伝わるんだから、応援してあげればいいのに、と思う。でも、学生同士だとなかなか難しいのかな、なんて。少ししか年が違わないのに、形振り構わずに何かに夢中になれるのが、羨ましい。


「名前さんは彼氏、いないんスか?」

「ぶはっ」


そりゃ、聞いたからには聞かれるだろうけど、この手の話は大分してなくて。ちょっと動揺してしまった。飲んでたビールが変なところに入った。


「ずーっといないよ」

「えー!名前さん可愛いのにもったいない」

「もう、褒めても何も出ないよ!社会人って案外出逢いないよ」

「……そうなんスか」


高校の時に付き合ってた人と、社会人になって連絡を取らなくなって自然消滅してそれっきり。それ以降は何にもなかった。そんな余裕もなくて、今に至る。思い返せば本当に何もなかったなぁ、って。だからこうやって男の子と飲むのも久しぶりだもんね。だから、本当に楽しいな、って。


「だったらっ」

「…ん?」

「いや、何でもないッス」


へらっと笑った赤也くんは頭を掻いて、グラスの中身を飲み干した。気になるから教えてよ、と言っても赤也くんは何でもないと教えてはくれなかった。
その後も、他愛ない話をしながらお酒が進んで、久しぶりに飲んだのに楽しくて私はつい飲み過ぎてしまっていた。


 

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