『弦一郎!いきなり…意地悪。』


照れ屋なのか、強引なのか分からないよ。

本当、こんなサプライズでいっつもドキドキし通しだ。

そう言ってやろうかと思った瞬間悪戯に微笑む弦一郎が真剣な顔をして言った。



「名前、さっきのは俺なりの…表現だったんだ。

悪戯などでは無い。」



弦一郎の言う言葉の意味が分からなくてポカンとしてしまう。

弦一郎はたまにこうやって抽象的な事を言っちゃうからそれを解くにはかなりの頭脳がいる。

そういう時には素直にギブアップして聞くのが一番なのだ。



『…表現?』


「ああ。名前は笑うかもしれんな。」



『笑わないよ。』


「今のは、…その。将来の予約のつもりなんだ。」



そう言って目線を逸らした弦一郎。


さっきのキスの意味が分かったのは、キスされた左手の薬指が熱かったから。


ああ、もう。
なんでそんな事しちゃうかな。


さっきまでドキドキしてたと思ってたらいきなり涙腺熱くなって来ちゃった。


『…ふっ…っ。』


気付いたら私の頬には生まれて初めての嬉し涙が流れてて。

それを見た弦一郎はいきなり焦り出した。



「な、何故泣くんだ?」



『…う、れしいから。』




だってあの弦一郎が、言っちゃうんだよ。

先の見えない将来の事予約しちゃう。なんて現実味の無い事。

こんな嬉しい事って無いじゃない。




「…本当に名前には敵わんな。」




そう言って、弦一郎はそっと私を抱き締めた。

敵わないのは私だよ。





弦一郎の愛しさの表現に、

誰よりも落ちてる。




『さっきの返事だけど。

弦一郎の指も予約させて?』



「ああ、もちろんそのつもりだ。」




豪華なダイヤモンドのリングなんて無いけど。

そのキスはずっと私達を繋いでる気がする。











END

  


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