翌日、跡部からのメールを受信した。知らないアドレスだったけど件名に俺だ、と入っていたから察しは付いた。こんな偉そうな件名は跡部くらいしか思いつかなかったし。アドレスを教えた覚えはないけど、まぁそこら辺は深く考えない事にする。だって跡部だし。
メールは祭りの日程と18時に迎えに行く。という質素な内容だった。迎えという文字に、前日の帰路での状態がフラッシュバックして現地までの道中絶対会話が持たない、と考えたら現地集合でお願いします。と業務連絡みたいな返信をしていた。手が勝手に動いていた。怖い。メールを見て赤くなったり青くなったりしている私を見て「自分やっぱおもろいなぁ」と呑気に構えている丸メガネに殺意を覚えたのは言うまでもない。
そして昼休みは告白の練習を強いられ、放課後は部活見学を義務付けられ、赤くなったり青くなったりたまに涙目になったりしながらあっと言う間にその日はやって来た。やって来てしまった。
「俺たこ焼き食いてぇ」
「岳人あかんで。ぼったくりや。買わん方がええ」
「おい、それを言っちゃおしまいだろうが」
「で、何でいるのかな君達は」
「え?冷やか、じゃなかった。最後まで見守るのが俺達の義務だろう?」
「あ、うん。アリガトウ」
絶対冷やかしだ。100%冷やかしだ。けれど、滝君があまりにも良い笑顔で言うもんだから突っ込まないでおこう。後が怖い。
「そろそろ時間だね。ほら、離れるよ」
「おう、苗字頑張れよー!」
「頑張りや」
「まぁ無理すんなよ」
ひらひらと手を振りながら遠ざかっていく四人に手を振りながら、男四人で祭りって悲しくないのかな、とぼんやり考えた。本人達には絶対言わないけど。名目上は私を見守る為に来てくれてる訳だし。こっちを振り返りもせず、あれ欲しいだのこれ食いたいだのめっちゃ満喫してるように見えるけども。まぁ彼らがどこかにいると思えば心強い…かもしれない。緊張してないと言ったら嘘になるけれど、彼らのお陰で自然体でいる事が出来る気がする。そう、自然体だよ。落ち着け。
「ふうううう。すう、はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「……随分深い溜め息じゃねーの」
「うわっ!あ、跡部いたの…」
「今着いたとこだ。悪かったな待たせて」
「違うの!溜め息じゃないから!待たされた溜め息じゃないから!待たされてないし!私も今さっき来たとこだから!ただの深呼吸だからね!」
「何で深呼吸なんだ?」
「あはは気にしないで」
何てタイミングの悪い奴だ。凄いビックリした。心臓に悪いなぁもう。普段はあんなに目立っているというのになぜ今気配を消して来たのか。私が気付かなかっただけか。
「まぁいい。行くか」
「うん」
そう言って歩き出した跡部に続いて歩き出す。私服姿もカッコいいなコノヤロー!私ももうちょっと頑張れば良かったかな。これでも頑張ったつもりなんだけどさ。今更気にしても遅いんだけど。
「何でそんな後ろなんだよ。話ずれーだろうが」
「え、あ、ごめん。隣歩いても恥ずかしくない?」
「あん?何が恥ずかしいんだよ」
きゅんとしてしまった。跡部はそんな小さい事気にする奴じゃなかったね。何でもない!と隣に並べば、変な奴と返ってきた。跡部に変な奴呼ばわりされたくないけど、何だか嬉しくて、じんわり心が温かくなった。私、跡部が好きなんだなぁ。散々忍足に言われたけど。
「何か食いたいもんあるか」
「うーん。じゃありんご飴!」
「飴ってお前子供かよ」
「いいじゃん!美味しいよ?りんご飴」
「分かった分かった。買ってやる」
「え!ありがとう…。でも…カードは使えないよ?」
「なめんなよ。それぐらい知ってる」
「意外!」
「お前俺を何だと思ってんだよ」
使えねえなら使えるようにしろ!とか言いそうだなぁ、と思ったけど、笑って誤魔化しておいた。もしかしたら下調べして来てくれたのかなと思ったり。こんな何でもない会話が楽しくて、初めて忍足達に感謝した。忍足達の協力がなかったら今こうやって跡部と並んで歩く事は出来なかったと思うから。
その後、りんご飴を買ってもらい、射的で容赦なく次々と景品を落としていったり、金魚すくいで金魚をすくい過ぎて隣でやってた子供を泣かせちゃったりとか、跡部はやっぱり跡部なんだなと実感した。景品と金魚はこんなに要らないし荷物になるから、とお店にお返ししたけどおじちゃん達涙目だった。可哀想。
「たまにはこういうとこも楽しいじゃねぇか」
「あはは、良かったね」
「ほら」
「ん?」
「これやるよ」
「え?ありがとう。どうしたのこれ」
「何か持ってけって言うからよ。射的の景品だ」
「…ありがとう」
手渡されたそれは可愛い髪飾りだった。たくさん獲った景品の中から私の為に選んでくれたんだよね。嬉しい。凄く嬉しい。
「付けてもいい?」
「おう。飴持っててやるからよこせ」
「うん!」
食べかけのりんご飴を跡部に手渡して、前髪に髪飾りを付ける。鏡がないから少し変かもしれないけど早く付けたくて。跡部はというと手渡されたりんご飴を食べて「甘めぇ…」と呟いていた。私はそれに気付かなかったんだけど。
「…どうかな」
「似合うじゃねぇか」
「え、へへ。ありっわぁ」
人混みで立ち止まっていた事をすっかり忘れていて、人にぶつかってよろけてしまった。こんなとこで立ち止まってんじゃねーよ、だって。怖い。自分の世界に入ってしまっていた。ごめんなさい。
「危ねぇな。名前大丈夫か」
「う、うん」
「ほら」
そう言って差し出された手。思わず跡部の顔を二度見した。「何だよ」と怪訝な顔をされたけども。えー!マジですか。どうしようどうしよう。手を取る事を躊躇していた私に痺れを切らしたらしい跡部は自分で私の手を取った。そして「行くぞ」と歩き出す。やばい。今手汗べったりだと思うの。
「あのっ跡部」
「何だよ」
「どこ行くの」
「もうすぐ花火が上がるんだろ。見えるとこ行こうぜ」
「う、うん。私、はぐれたりしないよっ」
「当たり前だろ。子供じゃねーんだからな」
跡部は少しだけ笑った。はぐれないと言っているのに握られたその手が離される事はなかった。もう頭がいっぱいで、彼らが見ているという事をすっかり忘れていたのだった。
「おい!手繋いでるぞ!」
「やるじゃん」
「苗字の奴絶対顔真っ赤だよな!」
「…羨ましいわぁ」
「えっ忍足お前…」
「苗字が好きちゃうで。ただ俺もあんな」
「おい亮、侑士にかまうな。こいつはロマンチストなんだ」
「そういう事か」
「俺達も行くよ。見失っちゃう」
「もういいんじゃね?」
「何言ってるの宍戸。これからが面白いところなのに」
「萩之介…お前って奴は…」
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