昼休み。忍足が「さぁ行くで」と怪しい笑みを浮かべながら立ち上がった。机の上に準備した弁当は忍足に捕らえられ、弁当返せー!と奴を追いかけて辿り着いた屋上。「作戦会議や言うたやろ」と弁当を返してきた忍足は屋上の一角を陣取った。ここで弁当を食べながら作戦会議という事か。それならそうと言ってくれたら良かったものを。いや、言ったところでそれに素直に従う私ではない事を忍足は分かっていたのだろうけど。そもそも頼んでないってば!と思いつつ、まぁ来てしまったものは仕方がない。とりあえず弁当食べようかな。と忍足の側に腰を下ろした訳なのだが。


「どうしてこうなった…」

「え?」

「いや、何でもないッス」


気付けば円形になれる程の人数が集まっている。悪ぃ、待ったー?なんて言いながら集まって来た面々を見て正直固まってしまった。だってそれがテニス部のメンバーなんだもの。おかしくない?おかしいよね?待ったー?って何だ。全然待ってないです。待ち合わせした覚えはこれっぽっちもないんですけど!どうして来たの?と隣に座った岳人君に聞けば「作戦会議や。昼休み、食事持参で屋上集合。って一斉送信のメールが来た」と教えてくれた。おかしいよねー。それおかしいですよねー。一斉送信って何だ。何で人数集めてんだよこの丸メガネ。寝てる人居るんですけども。この人は絶対来た意味がないと思うの。うん。


「よし、じゃ本題な」

「やっとかよー」

「で、作戦会議って何だよ」

「部活の事じゃ…なさそうだね」


そもそも跡部がいないし。と言いながらちらっと私を見た彼は確か滝君だったか。とりあえず笑っておく。忍足が話を切り出したという事は、呼んでた人は集まったという事だろうか。正直言って名前は分かるけど忍足と岳人君以外話した事がない。私以外は部活動のメンバーであって、あちらさんから見たら私が完全な部外者である。


「まぁ、部活が関係あるかないかで言うたら、少しだけ関係あんねん」

「関係あるの?」

「じゃぁ何で跡部が居ねーんだよ。つーかコイツ誰?」

「コイツは俺と同じクラスの苗字名前や。よろしゅうな」

「よ、よろし、く」


集まった視線に思わず挨拶をしてしまった。よろしくねぇー、と間延びした声がしたと思ったら、寝てた人だ。辛うじて目を開けてこっちを見てる。起きてたのか!つーか、よろしくじゃねえええええええ!


「それで、苗字さんとはどう関係あるのかな。テニス部と面識はないよね?」

「俺はあるぜ!」

「面識あるんは俺と岳人だけやと思うけど、実は苗字な……」

「…?何だよ、じれってーな」

「……跡部に惚れとんねん」

「…はっ!ちょっ!えっ!?」


溜めたなー。この男凄く溜めたなー。そしてとんでもない事を言ってくれた。おいふざけるな。またしても視線が集まってるじゃねーの。どうしてくれんの。どうすれば良いのこれ。しかも惚れてるってそんな事言ってないってば!


「違うから!忍足の勘違いだから!」

「顔真っ赤。いい加減素直になり」

「なるほど。ライバルが多くて大変だもんね」

「あー…俺そういう話題パス」


私が焦る一方で彼らの反応は、お前もかー的な感じだった。そりゃ跡部はファンが多いし、部活中もキャーキャーうるさいんだろうな。私もその中の一人って認識なんだろう。しかし一緒にしないで頂きたい。キャーキャー言った事なんて一度だってないし、別にファンじゃないし、そもそも惚れてないし!好きじゃないし!


「この通り苗字は素直じゃないねん。でもな、めっちゃ良い奴なんや。だから跡部と上手くいくように協力してやりたくてな。その為の作戦会議っちゅー訳や」

「忍足…」

「ついでに言うと、うぶでなー。放課後こっそりサロンからコート見とったりすんねやんか」

「ちょっと!何で知ってんの!…ってちちち違うし!人違いじゃないの!」

「へぇ。良いよ。楽しそうだし協力する」

「苗字って意外と可愛いとこあんのな」


やだ。何なのこれ。穴があったら入りたいんですけど。忍足は何でそんな事知ってんの!言われた通りこっそり見てたのに!こっっっっっっそり!ちょっとしたストーカー行為なんだから、気付いてたなら言ってくれたって良いじゃん。気付いてるよー的な。実際そんな事言われても困ると思いますけど!それに楽しそうって何だ。意外と可愛いとこあるって何だ。意外とじゃないですー!私はれっきとした乙女ですー!と頭がフル回転しているのだけど、一言も口に出す事はなく、おまけに顔も上げていられない私です。あ、ご飯粒落ちてる。


「さて、どうしようか」


滝君本当に楽しそう。声が弾んでいる。未だ顔が上げられない私だけれども、表情が何となく想像出来る。あー!やだやだ!私どうなるの?どうなっちゃうのかな?ちらっと忍足を見ると割と真剣な顔で話をしていた。そんなに真剣になっちゃって!私、忍足には何もしてあげられないよ。どうしてここまでしてくれるのかな。
しばらく見ていたら視線に気付いた忍足は笑った。また「任せとき」と言って。もう!こうなったら覚悟を決める!忍足の好意を無駄にはしない!まぁ、余計なお世話とも言いますけど!


「あ、ああありがとう。よろしくお願いしま、っす」


改まったら照れちゃって尻すぼみになった言葉と再び真っ赤になったであろう顔の事は私と忍足の秘密って事で。




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