恋する乙女に溜め息は付き物である。桃色吐息的な。


「はぁー、好きです」

「えっ」


溜め息混じりに呟けばブン太は一瞬驚いてからポッと頬を染めた。そしてあー、とか、うーん、とか言いながら目を泳がせている。そうそう。普通の人ならこんな反応が返ってくるのが正解なのだ。とりあえず、誤解を解いとこうか。


「弦一郎をね」

「えっ」


またしてもブン太は驚いた。しかし今度は目を見開いて私を凝視している。何だよ。悪いのかよ。「マジかよぃ!」と言う男は相当私の言葉が信じられないらしい。けれど今の言葉は私の本心な訳です。


「ぜんっぜんそんな風に見えねぇ!お前天才的だな!でもお前、不毛過ぎじゃねぇ?」

「あー!うっさいうっさい!」


ギッと睨みつけてやると「怖ぇ」と怯えた顔を見せた。弦一郎もこんなに表情が豊かだったらなぁ…。いや、やっぱいいや。
私と弦一郎は幼なじみなのだが、私は小さい頃からずっと弦一郎が好きだ。それでいて全然そんな風に見えないというのは私の努力の賜物である。弦一郎の性格を考えれば態度に出す事は得策じゃない。ふん!幼なじみ舐めんなよ!弦一郎相手では態度で気付いてもらおうなんて考えは浅はかであり、周りに冷やかされるのが関の山だ。さっきブン太は、不毛過ぎ、と言ったがその言葉は以前弦一郎が後輩君から「二人はどんな関係なんスか」と聞かれて「ただの幼なじみだ」と答えた事に由来するんだと思う。実はその場に私も居たんだけどさすがにあの時はきつかった。泣きたくなった。と言うか、家に帰ってから泣いた。その言葉を弦一郎の口から聞いた以上思いを伝えても結果は目に見えている訳で、だからと言って気持ちをないものになんて出来るはずもなく、募るだけの思いに私はパンクしそうだ。


「ブン太くん。私はどうしたら良いと思いますか」

「どうしたらって」

「結果は分かってる訳じゃん。言っても。でも好きだし、気持ちが溢れ出しそうだし、関係壊したくないし、でも好きだしぃぃぃぃぃああぁぁぁ」

「ちょ、待て。壊れんな。ってかお前結構乙女だな」


ブン太の笑ってる口元にイラッとした。良いですかブン太君。女の子は誰しも乙女なのですよ。乙女心を持ち合わせているのですよ。それが分からないなんてまだまだだな。


「ふっ」

「何だよぃ。何笑って、あっ」

「ん?」


あっ、と言ったブン太の視線を追うとそこには弦一郎が居た。教室の戸口に弦一郎。ん?弦一郎!何でこんなところに!とりあえず「どうしたのー」と声をかけると「ちょっと良いか」と返ってきた。何だろう。私に用があるのか。


「何?何かあった?」

「あぁ、今日は練習の後、ミーティングがあってな。先に帰っていろ」

「そうなんだ。分かったよ」

「気を付けて帰るんだぞ」

「大丈夫だって!」

「……ははっ」


その時、弦一郎と話していてブン太に背を向けている私はブン太が笑っている事には気付かなかった。



ごめん、訂正する
よくよく見れば、二人のやり取りは恋人同士にしか見えなかった。



「お前鈍感なんだな」

「何が!?」

「不毛じゃねーって事」

「はぁ?」


弦一郎との話の後、ブン太にかけられた言葉に私はただただ疑問符を浮かべるばかりだった。その疑問が解決するのは同じ相談を仁王にしたもう少し先の日の事。

20091112

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