私は忘れていた。日々の業務が多忙を極め忘れていた。しかも社会人になるとイベントとかないじゃないですか。日にちの感覚とかないじゃないですか。だからな、忘れてたんですよ。


「苗字さん、ちょっと」


やっと一息ついた私に声をかけた隊士はなかなか険しい顔をしていた。険しい顔をしたいのは私だよ。と心の中で毒づきながら、何ですか。と答える。隊士は、こっち来て。とだけ言って背を向けて歩き出した。せっかく一息ついたところだったのに!結構体が限界なんですけど!と思いながら付いていく私はなんて従順なんだろう。


「はい、どうぞ」


そう言った隊士は広間の襖を開けた。部屋には局長、副長をはじめ多くの隊士が鎮座していた。シン…としている。何この空気。ここで私は気付く。あれ?前にもこんな事があったような…?


「待ってたよ名前ちゃん。そこに」
「うわああああああああああ」

気付いた。分かった。思わず大声を上げる。ビビっている局長と鬱陶しそうに息を吐く副長。これはあれだ。季節的なあれだ。強制的なあれだ。私にかけられた呪いのあれだ。うわー…とテンションだだ下がりな私に副長が憐れみの視線を向ける。


「分かったか」

「分かりました…あれですよね」

「ああ。あれだな」


言いながら咥えた煙草に火を付けた副長は、で?と私に問う。何がだよ。と思ったが思案する。多分何故遅れたのか。という事だろう。いや、分かるだろう。私は多忙を極めていたのだから!それぐらい察して欲しい!


「忘れてました」


あっけらかんと言い放った私に、隊士一同が溜め息を吐いた。何ですか。私が全面的に悪いって言うんですか。そもそも私がこんなに忙しいのはあんた達がここでこうしてるからじゃないですかね。


「めっちゃ不満。その反応」

「そりゃお前が一大イベントをすっぽかしてんだからな」

「私にとっては忘れる程どうでもいい事だったんですけど。だって負担でしかない」

「名前ちゃんにとって、俺達って…ふ、負担だったんだね…勲ショック…」

「もおー…すぐそういう事言うー…」

はぁ、と溜め息を吐いてとりあえず腰を下ろす。室内の隊士の視線が痛い。もうこれは流れ的にどうにもならないやつだ。


「はいはい。分かりました。作ればいいんでしょ作れば」

「やけに素直じゃねーか」

「だってヤダって言っても聞いてくんないじゃん!局長はすぐ泣くし!」


顔を覆ってメソメソと泣いていた局長は作ってくれるの?と言いながら顔を上げた。や、可愛くないけれども。


「作りますんで休みと金を下さい」

「お前な、こういうのは普通自分の時間と金をやりくりしてやるもんだぜ」

「ちょっと待ってよ!じゃあ作りませんよ!何人分作ると思ってんの!?破産させる気か!」


そりゃぁ副長ぐらいお金をもらってれば話は別かもしれませんけど?私は平隊士ですからね?副長を睨みつけてみても副長は微動だにしない。悔しい。


「今年は俺に本命くださ」
「ねーよ。全部義理だよ。もらえるだけありがたいと思え」


どこの隊の誰だか知らないが、こうなるから嫌なんだ。何でイベントって無駄に人々のテンションを上げてしまうんだろうか。こんなイベント無くなってしまえばいいのに!
その後、きっちり製作時間と費用を頂いてせっせと義理チョコを作った。途中で私何してるんだろう…と悲しくなったけど。来年は事前に申請しておこうと思う。忘れなければ。



続・呪いチョコ



来年は本命が出来たので義理は作りません!って言えたらいいのにな。

20160218

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