たまたまだ。本当たまたま。街でたまたま会って、思い出したからついでに言ったみたいな誘い方だった。「あ、25日、飲もうぜ。家来いよ。クリパクリパってガキ共がうるせーんだよな。じゃあな」「あ、うん」と返事してる間にさっさと行ってしまった銀髪の後ろ姿はすぐ人混みの中に紛れた。幻かとも思ったけど、人混みの中にチラッと見えた銀髪が今のが現実だと分からせた。もし街で会わなければこの誘いはなかったのだろう。だから私が誘われたのはたまたまだ。何回たまたま言わせるんだよ。卑猥か!まあそれは置いといて、もしかしたら自作しているかもしれないケーキを片手に万事屋へやって来た。何個あったって神楽ちゃんがペロッと食べてくれるだろう。あと大人用にお酒。クリスマスソングとイルミネーションに彩られた店で一人ケーキと酒を購入する女の惨めさを考えて頂きたい。これから一人クリスマスか可哀想とか思われてたんだろうな。予約しとけば良かった。
「銀ちゃーん、来たよー」
「おー入れ入れ」
若干の虚しさを抱きつつ玄関から声をかければ襖越しにほろ酔いの返事が返って来た。もう飲んでやがったか。部屋から漏れ出た暖気と光でわずかに温く薄暗い玄関に違和感を覚える。
「お待たせ」
「よぉ」
「…新八くんと神楽ちゃんは?」
「志村ん家」
外と比べ物にならないくらい温かい部屋には予想に反して一人しかいなかった。違和感の正体はこれだ。靴がなかったのだ。彼の物しか。
「志村家に変更になったの?教えてくれたら直接行ったのに」
「なってねーよ。元々ここは今日俺とお前だけ」
「…そ、そうなの」
「まぁ座りなさいよ」
「あ、うん」
こたつに入っている彼はポンポンと自分の隣を示す。これは予想外だ。何が何なのか考えながらもちゃっかり示された隣へ腰を下ろす。私達二人しかいないのか。
「ケーキ買ってきたよ。あとお酒」
「おー。ケーキはあとで食おうぜ。とりあえず乾杯」
「かんぱーい」
渡されたグラスと彼のグラスが小気味いい音を立てた。とりあえずぐびぐびと酒をあおってみる。話はそれからだ。と、酒を流し込んでも味がしない。予想外の事態に緊張しているのか私は。目の前のテレビからは楽しげな笑い声が聞こえてくる。今日は楽しいクリスマスのはずなのに。この状況でどう楽しめと?
「何難しい顔してんだよ」
「ひぎゃああああ」
「うわっ、銀さん傷付いた。てか冷たいなお前」
いきなり頬に手を当てるもんだからそりゃ悲鳴をあげますとも。ビックリした。体温急上昇して倒れちゃうよ。
「寒かった?外」
「寒かったけど、今ので大分温まりました」
「へーそりゃ良かった。銀さんは今ので心が冷えましたけど」
「だっていきなり触るから…!」
「難しい顔してるからよー」
「だって銀ちゃんしかいないからっ」
「だってだってってうるせーな。俺だけじゃ不満?」
真っ直ぐ私を見つめた瞳はまるで獣のようなぎらぎらしたそれで。呪縛にでもかかったように動けない私はまた体温が上がっている。
「クリパって言うから…」
「俺とお前でクリパ」
「…言ってよ」
「言ってたら何かあんの」
「な、ないけど、心の準備とかあるじゃん!」
「あるじゃねーかよ」
「ちょ、ま、近い近いちかっ」
近付いた顔はそのまま近付いて唇が合わさって。体が倒されて、するりと口内に彼が侵入する。お酒の味。お互い様だけど。やっと離れた頃には私の体がひどく熱くなってた。
「酔い潰れる前にどうですか」
「な、何その誘い方!今日だってたまたまここにっ」
「たまたま?お前の口からそんな卑猥な言葉が聞けるとはな」
「卑猥じゃない!」
「俺は最初からお前と二人でのつもり。ガキ共と一緒なんて一言も言ってねーし」
「言われて、ないけど」
「だろ?あそこで会ったのは偶然だけどな」
「やっぱたまたまじゃん!言ってくれたらプレゼントとかもっと…ちゃんと」
「お前がプレゼントってことでいいよ」
「私は物じゃなっひゃぁ」
「まだ冷えてんなー。銀さんが温めてやるよ」
そのまま私は抗えず、彼に体を預けた。予想外だったけど、甘い甘いクリスマスになりましたとさ。
聖なる夜の
20151224
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