父は殉職した。任務中、仲間を敵から庇ったそうだ。死に際は見てない。だけど、父の遺体とは対面出来た。連れて帰って来てくれたから。申し訳ないと泣きながら何度も謝る父の同僚と父の側でむせび泣く母。そして日に日に弱っていく母を見て絶対大切な人を作らないと決めた。母みたいな気持ちになりたくないし、私のせいでそんな気持ちになって欲しくない。だから、父と同じ忍の道を歩むとしても大切な人は作らないと、幼心にそう決めた。
「名前さ、今日飲みに行かない?」
「行かないです」
「つれないなぁ〜。たまにはいいじゃない。付き合ってくれても」
「私以外にもいますよね。むしろカカシに誘って欲しい人は沢山いると思いますよ」
「俺は名前と行きたいの」
私は密な接触を避ける為に暗部への所属を希望した。ほぼ極秘の任務となるし、素性だってごく一部の人間しか知らないはずだ。それなのに何故かこのカカシという男にまとわりつかれていた。確かに何度か一緒に任務をこなした事があるけれどそこまで親しく接した覚えはない。ただ、これが嫌ではなかった。もっと冷たく突き放せば良かったのに。
「名前っ!」
「…カカシ、どうしたんですかそんなに慌てて」
「だって、名前が任務中に負傷したっていうから…」
慌てて病室に入って来たかと思えば私を見て安堵の表情へ変わった。「勘弁してヨ」と言ったカカシは今まで見た事無いような表情で私の頬を撫でた。嫌では、無かった。
「…こんな傷かすり傷ですよ。それに、忍に怪我は付き物でしょう?慌てる事じゃないですよ」
「まぁ、そうだけどネ。心配はするでショ」
「…そういう、もんですかね」
「俺が怪我した時は心配してよ」
「どうでしょうね」
「しませんって言われない所に進展を感じるな〜」
楽しそうに笑ったカカシを最初の頃より疎ましくは感じなかった。
「カカシ…?」
里がペインの襲撃を受けた。被害は甚大だ。犠牲者がたくさん出ている。私は綱手様の護衛だった。報告へ来たチョウジがカカシの死を知らせた。綱手様は私に行って来いと言ってくれた。護衛は足りるからと。何故私がカカシの元へ行かなければいけないのか。だって私は綱手様の護衛だもの。でも私はチョウジに続いて駆けていた。綱手様の命令だからではない。頭の中がカカシの事で一杯だった。
「カカシ!ねぇ!」
瓦礫から掘り起こしたカカシは横になったまま動かない。呼びかけても呼びかけても返事がない。笑って私の名前を呼んでくれない。目を瞑ったまま動かない。私は何でこんなに必死なんだろう。こんなに胸が締め付けられるように痛いんだろう。涙が、溢れるんだろう。
「約束通り、心配してるんだから、返事くらいして下さいよ」
私は絶対大切な人を作らないと決めた。母みたいな気持ちになりたくないし、私のせいでそんな気持ちになって欲しくない。だから、父と同じ忍の道を歩むとしても大切な人は作らないと、幼心にそう決めた。はずだったのに。いつの間にかこの男は私の心に入り込んできて、私の大切な人になってしまったらしい。父が死んだ時、泣いていた母もこんな気持ちだったのかもしれない。愛しい人がいなくなる悲しみは、こんなにも辛いのか。
「カカシ…やだ、起きて。お願いっ」
分かってる。もう遅いって分かっている。それでも私はあなたとまだ一緒にいたいから。また私に笑いかけて欲しいから。分かってるのに。
「どうしたの。そんなに泣いちゃって」
「!?カカシ…!嘘っ」
「俺も驚いてるヨ。色んな意味で」
いつもと変わらず笑ったカカシは私の頭を撫でて涙を拭った。カカシの手は温かくて、初めて心から嬉しいと思った。
「また会えて嬉しいヨ。まさか俺の為に泣いてくれるなんてね」
「自意識過剰ですね。でも自惚れてもいいですよ。今回は」
「…珍しく素直だネ」
「こんな風にならないと気付けなかったみたいです」
「何に?」
「こっちの話です」
結局、私は誰かを欲していて、誰かに愛して欲しくて、誰かを愛したくて、孤独なふりをしていたかっただけみたいだ。独りでも平気だと思い込んでただけみたいだ。誰かを想う事はこんなにも素晴らしいのに。こんなに温かい気持ちにもなれるのに。独りじゃ生きていけないと知っているはずなのに。他の誰かがいないと何も成り立たないと分かっていたのに。父と母を見て知っていたのに。
「これからはもっとカカシを大事にしようと思います」
「…プロポーズ?」
「こんな状況で不適切ですけど、本心です」
「否定しないんだね。俺はずっと前から名前が大事だよ」
「多分…分かってました」
「…分かってたんだ?小悪魔だねぇ」
「とりあえずこんな事をしてる状況ではないので行きましょう」
「うん。先は長そうだけど、ま、いっか」
また笑い合えて良かった。気付かないふりをしてた気持ちにきちんと向き合っていきたい。これから何があるか分からないけど、その時まで一緒に歩んでいこう。
わたしのきもち
20150810
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