銀ちゃんは色々な依頼を請け負う仕事をしている。だから、フラッと居なくなって何日か家を空ける事もあるし一日中家に居る事もある。だから何日か家を空けていても、仕事なんだろうなぁ、とそれ以外を疑う気にならないのだけど、どんな依頼を受けてるか知らないけど、たまに大怪我をして帰って来る事がある。体のあちこちに包帯を巻いて絆創膏を貼って…。今回もそうだ。数日家を空けて、帰って来たと思ったら神楽ちゃんも新八君も傷だらけ。もちろん銀ちゃんも、だ。
「ねぇ、何があったの?」
「んー…だからただ転んじまっただけって」
何度聞いても銀ちゃんはこれしか言わない。そんなの嘘だって分かる。包帯を替える時に何度も傷を見ているんだから。仮にそれが本当だとしてどんな転び方をしたらこんな怪我をするのか…。
「もう!」
「いだっ!ちょ、名前ちゃぁんもっと優しくしてよー銀さん痛いんだけど」
「知らない!」
包帯をキツく締めたら悲鳴が聞こえた。ちょっと涙目になってる。大人気なかったかな。でも私は心配してるのに。銀ちゃんは何も教えてくれない。私は万事屋の従業員じゃないけど、仕事に関する事は話せないのかもしれないけど、家を空けている間、私がどんなに心配しているか、どんなに無事で帰って来てくれるように願っているか知らないんだ。私が力になりたいと思ってる事も知らないんだ。
「…心配してるんだよ」
「ちょちょ、どうしちゃったの名前ちゃん」
「銀ちゃんが、またこんな大怪我して帰って来るんじゃないかって。このまま、帰って来なかったらどうしようって」
「だァーいじょうぶだって!銀さんこんなにピンピンしてるし」
「新八君と神楽ちゃんには怪我するような事させるのに!私の方が大人なのに!何で私には何も、言ってくれないの…私も…」
力になりたいよ。それは言葉にならなかった。ボロボロと涙が零れて。最後まで言えなかった。そんな私を見て銀ちゃんは困った顔を浮かべた。そしてポンポンと頭を軽く叩く。
「悪かったよ。そこまで心配掛けてるとは思わなかった」
「銀ちゃんっ」
「俺ァ、名前が待ってると思うと、どんな時も絶対ェ帰んねえとなァって思うんだよなァ。だから絶対帰って来るし、帰って来れる」
「でも、そんなに傷だらけになって帰ってくるんだから心配するに決まってるでしょ」
「銀さんこれでもお侍さんだからね?怪我の一つや二つくらいすらァ」
「一つや二つで済んでなんだけど」
怪我の一ヶ所ピンッと指で弾くと銀ちゃんはイテテと言いながら涙目になった。そしてこのっと言いながら私を引き寄せて抱きしめる。少し苦しいけど、銀ちゃんの匂いが心地良い。温かい。
「まァ、待っててよ名前ちゃん。俺達の帰りを。帰って来るからよ。必ず」
「他に出来る事ないの?」
「名前ちゃんは待ってくれてれば良いの!危険な目には合わせたくねーし」
「新八君と神楽ちゃんは良いの?」
「細けェ事は気にすんな」
「ぶっ、苦しいよっ」
ギュッと抱きしめる力が強くなった。本当にそれだけでいいのかな、なんて疑問も残るけど、銀ちゃんがそう言ってくれるから。ギュッと抱きしめてくれるから。
「約束だよ。ちゃんと帰って来てね。そしたらまたこうやって抱きしめてね」
「おう。とりあえずこのまま押し倒しちゃっていいかな?あだっ!」
「この傷が治ったらね!」
あなたって人はこれだから
お題:ひよこ屋
20140915
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