万事屋にて、ソファーで仰向けになってジャンプを読んでいる銀時。そしてその向かいのソファーで寝そべっている私。暇だから万事屋に遊びに来たというのに、新八君と神楽ちゃんは不在。銀時はジャンプに夢中。結局暇である。


「ねぇ銀時暇だよー」

「俺は暇じゃないの」

「私は暇だよー」

「知るか」

「ぶーぶー」

「お、活きの良い豚がいるな。晩飯はしゃぶしゃぶにでもすっか」

「ってめ、このやろっ!」


床に置いてあったジャンプを手に取って投げる。すると「ぶおっ!」と奇声を発した銀時は腹を抱えて悶え始めた。どうやら角が鳩尾にクリーンヒットしたらしい。へへ。ざまぁみろ。


「おまっ、ジャンプは投げる為にあるんじゃありません!」

「どっか連れてってよ。ドライブ行こうよ」

「ジャンプを投げるような子はどこにも連れてってあげませんっ!」

「せっかく遊びに来たのに銀時がかまってくれないから悪いんじゃない!…ぐすっ」

顔を覆った私を見て銀時は、げっ、と慌て出した。ちょ、待てよそれ反則だろ。とか言ってるけど知らないふりをする。銀時と私は実は恋人同士である。と言っても長い間友達だった私達は友達の延長線といった感じのお付き合いをしている。何がきっかけだったのかは忘れたけど「俺達付き合うか」という彼の一言に「うん、いいよ」と私が簡単に返事をして恋人としてのお付き合いが始まった。「んじゃよろしく」「はいはいこちらこそ」と、この何とも冷めたやり取りが二人が恋人となって初めて交わした会話である。甘い雰囲気なんて欠片もない。こんな感じで始まった私達にラブラブな期間というものは存在せず、恋人と言っても名ばかりで結局その関係は付き合う前と何ら変わりはない。好きと言われた事もなければうっふんあっはんな行為をした事もない。そういえばキスすらした事がない。…あれ?


「ねぇ、私達付き合ってるんだよね」

「おう」

「彼氏彼女だよね」

「おう」


ソファーに仰向けになってジャンプを読んだまま銀時は答えた。間を置かずに「聞いてる?」と言えば「おう」と…。聞いてねぇなこいつ。


「あーもう!暇だから真選組の屯所にでも遊びに行ってこよ。じゃーね」


立ち上がる前に天パの様子を伺う。相変わらずジャンプを読んでいる。引き留める言葉はない。ちくしょう。私達何で付き合ってるんだろう。付き合ってる意味あんのかなこれ。私はこの人の事好きなのかな。何でいいよって言ったんだろう。何でかまってくれないの。何で付き合おうって言ったの。銀時。


「……何。開けられないんだけど」

「おう」

「おうじゃないんだけど!」


部屋の引き戸に手をかけたのと、背後の銀時が、引き戸に両手を付いたのは同時だった。この腕の間から抜け出すのは簡単だけど、何だか悔しくて背中を向けたままただ前を向く。視界の端には銀時の手が映っている。ゴツゴツした大きな手。この手が私に触れる前に私達は終わってしまうのだろうか。


「で、どこに行くって?」

「真選組の屯所だけど?」

「何しに」

「遊びに」

「何で」

「暇だから!」

「だからって何であいつ等のとこなんだよ」

「どこに行こうが私の勝手でしょ!」


そう言うと戸に付いていた両手が下ろされた。そして背中の温もりが離れる。振り向くとそこには真っ直ぐ私を見据えている銀時。いつもみたいな死んだ魚みたいな目。あ、もう終わりなんだ、と思ってしまった。


「好きな奴でもいんの」

「え?」

「誰だ、マヨラーかドS王子かゴリラか」

「違うけど」

「けど何だよ」

「銀時が、かまってくれないからっ」

「だからヤキモチ妬かせようってか?なら大成功じゃん」

「えっ」


またしても腕の間に閉じ込められてしまった。でも今度はすぐ目の前に銀時の顔がある。息がかかってしまいそうな程近くて、え、ちょっと待って。


「あのっ、銀時」

「俺さ、こう見えてヤキモチ妬きなんだけど」

「あ、うん」

「お前といれるだけで幸せなんだけど」

「あ、ありがとう」

「手出したらもう抑えきかなそうなんだけど」


だからさ、そう言いながらその口が私の口を塞いだ。静かな部屋にちゅっちゅっと淫靡な音が響く。熱くて甘い。初めてのキスだった。


「手、出さなかったんだけど」

「はぁっはっ」

「そんな顔で見んなよ」

「そ、そんな顔って、なによ」

「リンゴみたいに真っ赤な可愛い顔。もう誘ってるようにしか見えねェ」

「あっ、ちょ、ん」

「で、行くの?行かねェなら銀さんちょうど暇になったからこのまま襲っていい?」

「い、行くって言ったら?」

「行かせねェけど」

「んっ」


首や頬を啄んでいた唇がまた私の口を塞ぐ。ヤキモチを妬かせるとかそんな事を考えていた訳じゃない。ただ単に誰か遊んでくれるかな、ってそれだけだったのに。銀時の本音が聞けた事が嬉しくて、触れられた事が嬉しくて。


「銀時になら何されてもいい」

「おい過激じゃねそれ」


私を抱き上げた銀時に呟くと頬が赤くなった。銀時こそリンゴみたいじゃん。甘い雰囲気の欠片もないけど、私達らしいのかな。この後愛を囁かれて泣いてしまったのは私達だけの秘密って事で。



在り方

20131124

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