部屋着にしている高校のジャージを着たままコンビニに行ってタバコを買おうとしたら年齢確認出来る物の提示を求められた。当たり前っちゃ当たり前なんだけど、私まだ高校生に見られるんだ!なんてバカな事思いながら免許証を出した。そしたら簡単にタバコは買えた。まぁちゃんと成人してるから当たり前。
ありがとーございましたー、と気持ちのこもってない声に送られコンビニを出ると外は寒かった。家からコンビニまで歩いていた時と大して変わらない気温だと思うけど、一旦暖かいコンビニに入ってしまっては温度差でかなり寒く感じる。
こんな寒空の下に長時間居たら確実に風邪をひくだろう。ジャージにダウンを羽織っただけの姿なら尚更。だけど真っ直ぐ家に帰る気にならなかった私はフラリと近くの公園に足を運んだ。時間が時間なだけに誰も居ない公園でベンチに座って一服。フー、と煙を吐きながら思う。何やってんだ私。何かオヤジ臭くね?まぁそれでもいっか。私の青春はとっくに終わってる。オヤジでも何でもドンと来い!だ。
このままここに居続けたらホントに風邪ひくかな、風邪ひいたら誰か心配してくれるかな、このまま家に帰らなかったら誰か心配して探してくれるかな、なんてくだらない事を考えてる私はきっと、疲れてるんだ。
フッ、と漏らした自嘲的な笑みは白くなって寒空へと消えていった。


「苗字じゃねーか」

「…銀、八…?」


公園に来てから二本目のタバコに手を付けた頃、いきなり呼ばれた名前。声のした方へ顔を動かせばこちらに向かって歩いてくる影が一つ。私を呼んだ気だるそうな声、暗くても分かるあの天パ具合。間違いない。銀八だ。本物のオヤジだあれ。高校三年間担任だった、銀八だ。


「なーんかウチの学校のジャージ着た不良が居ると思ったらおめーかよ。紛らわしいから止めてくんない?」

「う、うるさいなー天パ、私の勝手でしょ」

「え、何?未だ先生イジメ?せんせー泣いちゃいそーなんですけど」

「うざっ!つーか、卒業して何年経ってっと思ってんの?もうせんせーじゃないでしょ」


お前は俺の教え子なんだから、卒業したってせんせーはせんせーだ、と言って銀八は私の隣に座る。え、何自然に座っちゃってんの?別に良いんだけど…コイツ、銀八って全く変わんないな。こう、全体的に。


「それよりも良く分かったね、ジャージとか」

「あ?外灯で分かんだろーが。てか、お前いつからタバコとか吸うような子になった訳?せんせーそんな子に育てた覚えないんですけど」

「育てられた覚えないんですけど。タバコはつい最近かなー」

「体に悪いよー」

「せんせーに言われたくありませんね」


呆れた顔をする銀八に私は頬が緩む。懐かしいな、こういうの。すっごい前の事みたいに感じる。そんなに経ってないはずなのに。ま、いっか、くれ、と手を出した銀八にタバコとライターを手渡した。そういえばコイツ、授業中も構わずにタバコ吸ってたな。タバコじゃないって言い張ってたけど。
銀八とのやり取りで思い出達が蘇る。ミンナとバカ騒ぎして、沖田と授業サボって昼寝して土方からかって、神楽と早弁して、妙にボコボコにされる近藤くん眺めて、新八に山崎に高杉に…ミンナ、元気かな。ミンナはあの頃みたいに笑ってるんだろうか。


「で、」

「ん?」

「何してんの?名前ちゃんは。寒いのによ。そんなジャージ着て」

「名前ちゃんとか…キモいから止めてくんない」


ちょ、いい加減泣くよー俺!と騒いでる銀八は無視だ。
何してんの、って、仕事から帰ってタバコないの気付いてコンビニ行ってタバコ買って家帰る気にならなくて公園で一服?そう伝えたら、せめてスウェットでも着ろよー、と返ってきた。良いじゃん別に。ジャージ舐めんなよ。動き易いんだからな。せっかくあるんだから着ないともったいないし、他に着る機会なんてないし。それに、あの頃に、あの笑ってばかりいた楽しかった毎日に気持ちだけでも戻れる気がしたから。なんて。


「お前がそんなに学校好きだったとはねー」

「学校が好きだった訳じゃないよ」


銀八は意外、と思ってるように言ったけど全然そう思ってる顔してない。銀八らしいっちゃ銀八らしいけど。
実際あの頃は早く卒業したいと思ってた。早く大人になりたいと思ってた。校則とか先生とか嫌だったし。早く卒業して自由になりたかった。一方でミンナとずっと一緒に居たいから卒業したくないって矛盾した気持もあった。ミンナと過ごす楽しい毎日が、ミンナが大好きだったんだよ、私は。
まぁ後者は無理な話で、卒業して今に至る訳だけど。


「んじゃ今はあの頃程楽しくはない訳だ、苗字は」

「楽しくないよー」

「何で?」

「だって上司はうるさいし、笑いたくもないのにへらへらお客に笑顔振りまかなきゃいけないし。それが毎日じゃん。学校行ってるミンナとは時間合わなくてなかなか会えないし。楽しくなんてないよ」

「ふーん」

「早く卒業して自由になりたいとか思ってたけど全然自由じゃないね。高校の方が自由だったかも。大変だよね、色々」


そりゃーそーだ、と言いながら銀八は二本目のタバコに手を付ける。何本貰う気なんだコイツ。ケチ臭いと思われるからこれは言わないでおこう。それに話聞いてもらったんだから大目に見てあげようじゃないか。
でも、本気であの頃に戻りたいと思う。勉強は嫌だけど。無理なのは分かってる。だけどそれを思ってしまうのは疲れるだけの毎日に嫌気がさしてるからなんだ。きっと。


「要はさ、気の持ちよう、考えようじゃね?楽しくないなら楽しくしようぜ。今をあの時以上に楽しいと思える毎日にすれば良いだけの話だろ」

「銀八…」

「ん?」

「真面目過ぎてキモい」

「ちょ!お前!今、すげー良い事言ったのによー!何ですかそれは!」

「アハハ!嘘、ありがと」


銀八はいつも気だるそうにして教師とは思えない事ばっかやってたけど、こうやってたまに真面目に良い事言ったりするんだ。ホントたまーにね。
だから、何、教師面してんだよー!なんて正真正銘の教師なのに普段の行いからヤジが飛んでたよね。


「じゃ、再会記念として飲みに行こうぜい銀八」

「え、どこがどーなるとそんな話になんの?まー良いけど。ってお前そんなかっこで飲み屋入れると思うなよ」

「えー。しょうがないから銀八の家で宅飲みで良いや。話聞いてくれたお礼も兼ねてオゴるから」

「俺んち!?」

「家はダメー。こんなオッサン連れてったらお父さんが泣くもん」

「オッサン!?まだ二十代だからね!俺!つーか担任だった奴の顔くらい覚えてんだろ…けど良いか。何かどうでも良くなってきたな」

「よし!じゃ一先ず買い出しにレッツゴー!」


早く早く、と急かす私に銀八はベンチから腰を上げて歩き出す。
ねぇ、先生。話聞いてくれてありがと。少し気が楽になったよ。何でだか分からないけど、少し泣きそうになったよ。
それとね、先生とか嫌だったって言ったけど、銀八は嫌じゃなかったんだよ。





20081211
20131120再録

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