「ねぇ切原、いつまでこうして、」

「シッ!」

「……」


意を決してかけた声は簡単に制されてしまった。この状況になってどのくらい時間が経っただろうか。暑いし、苦しいし、しんどい。
私達は今、掃除用具入れの中にいる。何でこんなところにいるのかと言うと、何て言うか…巻き込まれた。廊下でたまたま切原に出くわして、走ってたもんだから、どうしたの?と話しかけたら「それがよー、じゃねーや!急いでっからこっち!」と手を引かれて掃除用具入れの中。最初こそ、へー案外二人入れちゃうんだぁ、なんて感心したものだけど、時間が経つにつれ楽観視しているどころではなくなった。苦しい。完全な密閉空間ではないものの苦しい。そりゃ二人がこんな狭いところで密着しているんだもの。暑いし、苦しくなるに決まってる。特に私は!切原は良いかもしれない。けど私は!切原に抱きしめられてるような形になっていて、顔が切原の肩辺りで。多分、いや絶対それだけが原因ではないんだけど、上手く息が出来ない。もうちょっとマシな場所があったと思うんですけど!


「まだ、出ないの?」

「ん、まだ」


さっきよりも小声で話しかける。切原は隙間から外を伺いながら短く答えた。狭いところでこんなにくっ付いているなんて本来ならドキドキするシチュエーションだろうけど、場所が場所だけにあんまり嬉しくない。早く出たい。


「なぁ」

「ん?」

「苗字って良い匂いすんな」

「なっ!!」


何言ってんのよ!と言いたいのをグッと堪える。じゃないとここまで耐え忍んでいたのが水の泡だ。しかし切原はそんなのお構いなしのようで。頭の近くに妙に熱い気配があって、スンスンと匂いを嗅いでいるような…って何してんの本当に!!


「ちょっと!切原止めてよっ」

「…ヤダって言ったら?」

「ヤダじゃなっ!!」


瞬間、ギュッと切原の腕に力がこもった。さっきよりピッタリ密着している。もちろん私達は小声で会話をしている訳だけれど、切原は耳元で言うものだから、反則、だ。おまけに「柔らけーし、ちっちゃくてかわいー」だって。信じられないくらい心臓の動きが早い。


「は、なしてよっ」

「ダーメ。つーかムリっしょ。ここ狭ーし」

「ちが、うで、さっきみたいでいいから」


ちらっと見上げると切原の顔がすぐそこにあった。妙に真剣な顔。目が合った。そして真っ直ぐ私を見つめて「なー苗字」と呼んだ。


「俺と、イイコトしねぇ?」

「な、にそれ」

「んー?キモチーコト」


ニヤリと笑った切原に色んな意味でくらくらしてしまった。この状況で発情するなんて。それに私達はただのクラスメイトだったのに。「ダメ?」と小首を傾げる仕草に私はまたくらくらとしてしまって、一線を越えるのもアリかな、と思ってしまった。


「だ、ダメじゃ、ないけどっ」

「けど?んっ!?」


私ばっかりドキドキしてるなんて悔しいから、噛みつくように唇を奪ってやった。目を丸くしてる切原に今度は私がニヤリとしてしまった。切原の鼓動がさっきより早い気がする。でもまだまだ。まだなんだから。未だ目を丸くしてる切原に、にっこり笑って、真っ直ぐ目を見て、こう言ってやるんだ。


「続きは、出てから、しよ?」



しかえし

赤井様へ相互記念
20130113

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