私達には本当の意味での休みは存在しない。休業なんて言葉は存在しない訳で。年末年始だって構わず仕事です。


「このまま何も起きなければいいですねぇ」

「期待してると泣きを見るぞ」

「いいじゃないですか少しくらい期待しても」


テレビの着いた広間には私を含め何人かが集まっている。私の言葉に返事をした副長も広間に居る一人で、ぼんやり煙草を燻らしている。
一応言っておくけど私達は待機組だ。別にテレビを観ながらサボってる訳ではない。副長が居る時点でサボりじゃないのは察しが付くだろうけど。
本当の意味での休みは存在しない、って言ったけど、中には休みを取って田舎に帰っている者も居る。まぁ組織的には本当に休みなんてないんですけどね。今屯所に居るのは、田舎に帰らなかった者。年末年始はその中で見回りの組を特別編成している。で、私達は今、見回り担当ではないので待機している訳だ。何か起きたらすぐにでも駆けつけられるように。


「去年は酔っ払いの対応に追われて新年迎えちゃいましたし、今年はゆっくり新年迎えたいなぁと思いまして」

「なら田舎に帰りゃよかったんじゃねーのか。休み取っていいって言ったろ」

「それはそうですけど…」


ぶっちゃけると私の田舎は遠い。だから帰るの面倒臭い。確かにゆっくり出来るだろうし、帰れば両親も喜んでくれるんだろうけど、遠いから何日か休み取らなきゃいけないし、そんなに休んだらだらけてしまいそうだし、休んでる間に差を、付けられてしまいそうだから。置いて行かれてしまうんじゃないかって、ちょっと怖い。それに私は仕事が好きだから。此処が、好きだから。


「何ですか?そんなに私を帰らせたいんですか?副長は」

「…何でそんな話になるんだよ」

「私は居ない方がいいと遠回しにそう言ってるんですか」

「そんな事思ってねーよ!何でそんなにネガティブなの!?お前」


図星だろうか。この慌てようは。この場所が好きだけど、この仕事が好きだけど、どっちも本当の事だけど、一番は、一緒に居たい人が居るからで。好きな場所で好きな人と一緒に新年を迎えられるなんて最高じゃない?こんな事言ったら不純な私事は持ち込むなって怒られちゃうから言えないけど。まともな休みがない事より何より女の子らしく恋愛が出来ないのがこの仕事の辛いところかもしれない。そりゃネガティブにだってなりたくなりますとも。


「何でもないです。忘れて下さい」

「何なんだよ…」


呆れ顔の副長は、ふぅと溜め息なんだか何なんだかを吐いて煙草を消した。鼻の奥がツンとした。溜め息とか止めて下さいよ。悲しくなっちゃうでしょーが!もう最後の最後に私は何をやっているんだ。


「…おい」

「何ですか?まだ何かあるっ」

「少し、黙れ」

「ちょ、待って。え?ふくちょ」


グイッと腕を引かれたかと思うと副長の腕の中だった。え?ちょ!何で!これは軽くパニックだ。まさか副長がこんな行動に出るなんて!広間に、いつの間にか私と副長以外の人が居なくなっているのが幸いだ。もしかしたら私達の不穏な空気を察して退散していったのかもしれない。不穏な空気を醸し出していたのは主に私ですけど。


「あのっ」

「お前が居ない方がいいと、思った事なんてねーよ」

「は、はいっ」

「だからそんな拗ねんな」

「す、拗ねてませんけど」


副長の手は私の背中を撫でている。よしよし。と、こんな感じに。私は子供か!駄々をこねてる子供なのか!あやされてるのか!でもそれが酷く心地良い。悔しいけど。


「可愛い奴だよなお前」

「ふ、ふく、」


頬を撫でた手が顎に添えられて、副長の顔が近付いた。心臓が爆発してしまうんじゃないかってくらいドキドキしてる。口角の上がった口元はもう見えない。それはとても熱くて力強くて…酒臭かった。


「おい!誰だ!副長に酒やった奴うううううう!!!」


私の肩にもたれ掛った副長を支えながら叫ぶ。いつの間にこの人は酒を飲んだんだよ!つーか私達待機組じゃなかったっけ?何で酒飲んでんだよ!テレビから流れる音が賑やかだ。きっと年が明けたんだろう。私は今年も酔っ払いの相手をしなければならないのか。
その後、私の声に何事かと駆け付けた山崎君と副長を介抱した。副長だけではなく私まで顔が真っ赤な事を山崎君は不思議がっていたようだけどあえて何も聞かれなかった。
副長は目を覚ましたらこの事を忘れてるだろうか。勇気を出して聞いてみてもいいのだろうか。色んな考えが浮かんでは消えるけど、とりあえずいい夢がみれそうです。ありがとうございます。



やっぱり帰らなくてよかった。

20130101

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