彼はただ、好きで好きで一生懸命なんだなぁ、と私は思う。それは近くで見ているから、彼と幼い頃から一緒に居て性格に耐性があるから、かもしれない。だけど、私にはただ側で見てる事と応援する事しか出来なくて、結局、直接力にはなれないんだ。


「最近楽しいそうだね、飛雄」

「あ?んな事ねーよ」


テン、テン、とボールを弄る飛雄は口元が緩んでいるような、いないような。でもこれだけは断言出来る。中学の頃より顔が輝いてる!暗く沈み切ったような顔じゃなくて、心から楽しそうな柔らかい顔。まぁ他の人から見たら違いなんて分からないかもしれないけど。それに輝いているとか大げさかもだけど。


「へいへい!パース!」

「うるせーよ!お前下手だからヤダ」

「私だけじゃなくて自分以外はみんな下手だと思ってるくせにー!」

「思ってねー」


そう言いながらボールを私に放る。口は悪いけど案外優しいんだ。飛雄は。
ポンッとボールを返す、返って来る。しばらく無言のパスが続く。やっぱり飛雄は上手だ。私がどんなところにボールを返してもしっかり私が居るところにボールが返って来る。


「…これはこれで良い練習になるな」

「えー?」

「何でもねーよ」

「っわ!」


飛雄が何を言ったかに気を取られてボールを後ろに弾いてしまった。珍しく長く続いたパスはいつも通り私で終わる。ごめーんと声をかければ「へたくそー」と返ってきた。どうせへたくそですよーだ!私はバレー部じゃないもん。飛雄と同じ男の子だったら、一緒にバレー部で、飛雄の仲間になれたのに。残念ながら私は女の子で飛雄と一緒に部活をする事は叶わなくて。


「私も男の子だったら良かった」

「何だよ、いきなり」

「そしたら飛雄と一緒にバレーが出来たのに」


はいボール、と手渡す。受け取りながらその眉間には深くしわが刻まれていて。恐い顔。だってそうだったら、一緒にバレーが出来たら、どんな事があっても私は飛雄の味方だし、中学の時あんな事にならなかったかもしれないし、なってても今みたいに元気に出来たのは私かもしれないし。でも私は見てる事しか出来なかったんだもん。元気になったのも高校で新しく出来た仲間のお陰なんでしょ。ただの、やきもちだよ。馬鹿。


「じゃあ、」

「……何」

「じゃあ誰が応援してくれんだよ」

「……私」

「お前が男だったら、俺をいつもお前が応援するとか気持ち悪ぃだろ。つーか、一緒に部活してて応援もくそもねぇよ」


だからお前はお前のままで良いんだよ。そう言った飛雄の顔は少し赤かった。きっとそれ以上に私は赤くなってる。さっきまで動いていたからとかじゃなくて、単純に嬉しくて。その言葉が嬉しかったから。


「今度、練習試合あんだけど」

「うん」

「来てくれんだろ?応援」

「うんっ!」

「俺、セッターやるから」

「レギュラーなの?」

「とりあえず、な」

「そっか。やっぱ凄いね飛雄は」

「まぁな。あとさ、面白い奴が居んだよ」


そう話す飛雄の顔は本当に楽しそうで。やきもちなんてくだらなく思えた。馬鹿なのは私。


「俺さ」

「ん?」

「お前が来てくれんの嬉しいんだけど」

「そ、それは良かった」

「頑張るから、これからも応援してくれよ」

「喜んで!」



ずっとずっとここにいるよ
いつも、きみのすぐとなり


お題:ひよこ屋
20121201

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