現在、登校中なのだが多分私はニヤニヤしている。ニヤニヤしながら歩いているなんて変質者以外の何者でもないが、今朝新聞を見ていたら良い物を発見してしまって。うわっ!これは!いいよいいよー!うっひょー!とテンションが上がり過ぎて今に至る。これはニヤニヤしても仕方がない。
まぁターゲットが学校に来なければこれはただの紙切れ同然で、私は悶々としたまま今日を終える事になるだろう。
「あっ!あっくーん!!」
今日はツイてる!登校中にターゲット発見!おはよー!と言いながらギロリと振り返った彼に駆けよる。今日も朝から恐いね!でも私は怯んだりしない。慣れっこだし、何より今の私はテンションが高い。
「テメェ、そうやって呼ぶなって言ってんだろ」
「うふふふ。良い季節がやってきましたねー」
「聞いてんのか」
「聞いてる聞いてる!良い季節だよねー!」
「だから何だ」
「じゃーんっ!」
言いながらポケットに忍ばせておいた紙を広げる。ピタッとあっくんは足を止めた。しかめっ面だけども。私は対称にニコニコしているだろう。
「マロンフェアーだって!今日の新聞に挟まってたの!」
「で、それがどうした」
「今日からなんだよ!学校終わったら一緒行こう?」
「…まぁ行ってやってもいい」
歩き出したあっくんを追いかけながら、じゃぁ約束ね!早退したりしないでね!と声をかける。「わぁったよ」と言った横顔は何だか嬉しそうに見えた。
私が新聞を見て発見した良い物とは、マロンフェアーと銘打ったケーキバイキングのチラシだった。何の変哲もない広告だが、このあっくんこと亜久津仁という男は大のモンブラン好きなのだ。見た目は強面、デカくておまけに口も悪い。けど、こんな可愛い好物がある。可愛いとか言ったら怒られちゃうけどねー!何故私がこんな事を知っているのか。それは私達が小さい頃からの仲だから、だ。本当は優しい奴なのに、見た目のせいで恐がられちゃって。私にとっては好都合なのだけど。
そして刻々と時間は過ぎる。クラスは違えどたまに見かけるあっくんはそわそわして見えた。楽しみなんだろうな。可愛い。
「おい」
「あ、あっくん」
放課後、あっくんはわざわざ教室まで迎えに来てくれた。一瞬にして教室が静まるのが分かる。「早くしろ」と急かされるまま荷物を持って、じゃーねー!と友達に声をかけて教室を出る。こんな状況も慣れっこだ。私もあっくんも気にしてはいない。
「うわぁ…混んでるねぇ」
「いらっしゃいませ!二名様ですか?」
「はい!」
「ではこちらへどうぞ」
初日という事もあり、お店は中々の混み具合だった。けれど、すぐに席に着けた。ラッキー!平日だからやはり学生が多いようだ。女の子同士、カップル…さすがに男の子同士は見付けられなかったけど、私達もカップルに見えてるのかなー、なんて。そんな浮かれている私を余所にあっくんは席に着くや否や「お前は待ってろ」と言って混雑する方へ消えて行った。こういう時のあっくんは結構アクティブだ。そして優しい。
「おらよ」
「わーい!ありがとー!」
しばらくして戻ってきたあっくんはウエイターのように三つも皿を持って帰って来た。もちろん私も分も含まれていて、目の前に置かれた皿は私が好きなもの、好きそうなものが乗っている。さすが小さい頃から一緒に居るだけある。言わずもがなあっくんの皿には栗系のものばかりが乗っていた。
「うーん!美味しいねー!」
「まぁまぁだな」
「ふふ。また来ようね。フェア終わる前にさ」
「そうだな」
まぁまぁ、と言いつつ顔は満足そうだ。あー!誘って良かった!私はあっくんのそんな顔が見れただけでお腹いっぱいなんですけど!
「来年も来ようね。再来年もその次も」
「気がはえーんじゃねぇの」
「予約しておかないと。他の人にあっくんとケーキ食べる権利奪われちゃう」
「そんな心配ねーよ」
「えへへ。じゃぁあっくんの幸せそうな顔見れるのは私だけだね!私あっくんの幸せそうな顔見れて幸せ。えへへ」
「…うるせぇ。黙って食え」
「はーい!んっ、これも美味しいね」
ちょっと照れたあっくんも可愛いなぁ、なんて。こんなあっくんは私だけが知ってればいい。これからも変わらず可愛いあっくんで居てね。幸せだなぁ。
可愛い人
20121007
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