夏が終わって秋。ようやく涼しくなった今日この頃。せっかく涼しくなったというのに、まるで夏の暑さにやられてだらけているような男が一人。まぁ別にだらけている訳ではないのだけど。夏が終わって彼は脱け殻になってしまったのだ。
「みんな来てるみたいだよ。あんた行かなくていいの」
「いんだよ別に。ジャッカル居るだろ」
「居るけど」
「やってくれるよジャッカルがー」
窓際に背中を預けて左程興味がなさそうに丸井は言う。薄情な男だな。いくら負けた事引きずってるからって、可愛い後輩達の面倒見てあげるくらいいいじゃない。過ぎた事をいつまで引きずるつもりなんだこの男は。女々しい奴。
「おい、聞こえてんぞ」
「あら失礼」
窓の外に向けていた視線を丸井に移す。じろり、と丸井はこちらを向いていた。しかしその目からは怒りではなく寂しさのようなものを感じた。
「言っとくけど別に負けた事引きずってる訳じゃねーからな」
「じゃー何?」
「やる気出ねぇんだよなー」
「お前は仁王か」
「あいつと一緒にすんな」
聞いておいてなんだけど、何となくその理由は分かってる。私達は三年。運動部の人達は夏の大会が終われば引退な訳だ。その運動部の中でも丸井が居たテニス部は強豪で今年優勝すれば三連覇だったらしい。もちろん三年である丸井達は気合十分だったんだろう。毎日すごく練習を頑張っているようだった。朝練もあったようだし放課後だって遅くまで練習していたようだ。それなのに、彼らの結果は準優勝だった。私は実際試合を観に行った訳ではないから内容は分からない。けど、一生懸命打ち込んでいた分、それなりにショックはあっただろうし、そのまま引退する訳で喪失感が半端じゃないんだと思う。打ち込むものがなくなってしまってやる気が出ない。と、ここまで部外者の私の見解。
「後輩の面倒見てやりなさいよ」
「体が動かねー」
「デブン太」
「んだと!」
ガタンッ、と勢いよく立ち上がった丸井。さながら威嚇してくる犬のようだ。と言うか何だよ。体動くじゃん。結構俊敏じゃん。さすが腐ってもテニス部。
「とりあえず違う事に興味持ってみたら?」
「例えば?」
「んー。私とか」
こんなのはずるいかもしれない。けどこっちにしてみたらやっとチャンスが来た訳だ。テニス以外に目を向けてもらえるチャンスが。
丸井は一瞬目を丸くしたけど、すぐニヤリと笑ってみせた。こんな表情前にも見た事あるぞ。ちょっと得意気な感じ。
「へー。お前が俺をねぇ」
「私は一生懸命テニスに打ち込むカッコいい丸井君を好きになったんですよ」
「はっきり言うじゃねーか」
「後輩の面倒見てこいよ」
「しょうがねーな」
近付いてきた顔は笑っていた。何だか嬉しそうに。私の勝手な思い込みかもしれないけど。
「覚悟しとけよ」
顔を真っ赤にしているであろう私に、そう言って意地悪く笑った丸井は荷物を持って教室を出て行った。覚悟って何の?とか、やってしまった、とか色々考える事はあるけれど、とりあえず、やる気が出たようで何より。
カーテン裏でキスをしよう
あいしていて様へ提出
20121004
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