元親の部屋で彼と向き合って早数十分。その間お互いに無言。ちなみに私は正座をさせられている。居心地が悪いったらない。さすがに足も痺れてきたし。


「で、反省はして」

「ない。だって私悪くないもん」

「…そうかよ」


そう言うと元親は深い深い溜め息を吐いて項垂れてしまった。部屋に来て初めて交わした会話は即終了。そしてまた沈黙。もう本当に居心地が悪い。
何故こんな状況になっているのかと言うと、ある現場を元親に目撃されてしまったのが原因である。


「しかしよ、野郎に飛び蹴りを食らわすとは無謀にも程があるぜ?」

「え、へへ」

「笑い事じゃねぇ」


そうそうそれ。目撃されたある現場ってのは、私が野郎に飛び蹴りを食らわせたところ。思わず笑ってしまったけど、改めて言われると、よくやったなぁ、と感心する。
元親の部屋に連れてこられる前、私は帰宅中だったのだけど、その時目の前を歩いていた柄の悪い二人の他校生の内の一人に私は飛び蹴りを食らわしてやったのだ。間が良いのか悪いのかたまったま元親に目撃されてしまった訳だ。まぁ、元親登場のお陰で蹴り飛ばした奴は何も言わず逃げて行ったから私は今ここに無傷で生還しているのかもしれないけれども。で、不良達を見送った後「お前ちょっと来い」と返事の有無に関わらず連行されて今に至る。正直に言うと、返事の有無に関わらず、というかあの時は従わざるを得なかった。だって元親が物凄く恐い雰囲気を身に纏っていたんですもの。ついでに、正座をさせられていると言ったけど、そんな元親の雰囲気に部屋に入るなり正座をしたのは私です。ごめんなさい。
しかし、元親にも言った通り飛び蹴りを食らわしてやった事についてはこれっぽっちも反省してないし、悪いとも思っていない。


「確かに元親が来なかったら私どうなってたか分かんないけどさ」

「だろ?ちゃんと後先考えろ。しかも後ろからいきなりってのはどういう了見だ。何でそんな事した」

「だって…」


もごもごと口ごもると元親は恐い顔を一層険しくした。うわっ!止めて!恐い!だって、私が蹴り飛ばした奴は元親の悪口を言っていたんだもん。元親は悪く言われるような事なんてしていない事を私は知っている。だからそいつが元親に喧嘩ででも負けてそれの腹いせか何かだと分かっていたんだけど、どうしても許せなかったんだもん。これを話したらきっとそんな事くらいで、って呆れられるんだろうな。


「あいつ、元親の悪口言ってた」

「そんなもん言わせておけば良いだろ」

「でも!私は元親を守るって約束した!」

「お前…」


元親は私の言葉に面喰ったようだった。その約束とは私達が幼い頃にした約束。今でこそがたいが良く男らしい元親だがその元親が女の子のように可愛かった頃の遠い昔の約束だ。
幼い頃の元親はそれはもう可愛かった。女の子に間違われるくらい。それに加えて気が弱かったせいでよく苛められていた。そんな元親を守るのが私の役目で、いつだったかめそめそと泣くだけの元親に「私が守ってあげるからもう泣かないで。約束ね!」と約束をした。今思えば私は幼い頃から大分気が強い子だったらしい。


「今と昔とじゃ違うだろ」

「そうだけど!頭にきたんだもん!」

「まぁー、ありがとな」


そう言うと元親は私から目を逸らした。そして何故か頭を掻きながらあー、とか、うー、とか唸りだした。照れてるんだろうか。ちょっと耳が赤い気がする。
しばらく唸った元親はゆっくり顔をあげると真っ直ぐに私を見た。なんか真剣な顔をしている。


「あの時よ」

「うん?」

「お前が、俺を守るって言ってくれた時」

「うん」

「俺凄く嬉しくてよ。でも情けなくて、いつかお前を守れるような強い男になろうって誓ったんだ」

「そう、なんだ」

「これでもあの時より強くなったつもりだぜ?だからよ、もう俺の為に危ない事すんのは止めてくれよ。心配すんだろ」

「うーん…」

「煮え切らねぇ返事だな。まぁ、」


元親の言葉に私はただ黙って頷いた。あの頃は守るばかりだった私。こんな事を言われる日が来るなんて思わなかった。でも、彼は確かに強く、逞しく、男になった。だから、頼りにしてるよ!出来れば一生よろしくお願いします。


「何かあっても俺が助けてやるけどな。今度は俺がお前を守ってやる」



約束

20091110

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