ふと、体に重みを感じた。目を開けると見知った奴のニヤついた顔。それにしても近い。近過ぎるでしょ顔。なんてふざけた夢なんだ、と思いたいのは山々だけども、覚醒していく意識の中で悟った。感じている重みはコイツが原因という事に。明らかに私の上に乗っている。何をしてるんだコイツは。


「夜這いとは良い度胸ですね猿飛」

「あれー?起きちゃった?」


ヘラっと笑った顔が何とも癇に障る。乗っかられて起きない方がおかしいでしょうが。この状態になってからどれ程して私の目が覚めたのかは分からないけれども、結果として目が覚めたのだから良しとしよう。


「何しに来た!」

「お、っと」


頭突きをかます勢いで起き上がってみたのだけど軽く避けられてしまった。くそぅ。いくらふざけていてもやはりコイツは忍のようだ。へっへー、と得意げに笑う様子がまた癇に障る。眠りを妨げられて只でさえ頭にきてるというのに本当に何しに来たんだ。そんなに私を怒らせたいのだろうか。


「普段雄々しい女武人も寝顔はとっても可愛いんだねー。俺様つい見入っちゃった」


やはり私の怒りを買いに来たようだ。枕元の愛刀に手を伸ばせば猿飛は明らかにしまった、という表情を浮かべ、立ち上がった私を待った待った、と制した。どうせ斬りかかったところでその軽い身のこなしで簡単にかわされてしまうのは目に見えている。だから斬りかからせて欲しい。かわされても少しは怒りが晴れるかもしれない。いや、もしかしたら怒りが増すかもしれない。とりあえず構えたまま猿飛の制止に応じる事にした。


「もう一度聞く。何しに来た」

「えー、さっき自分で言ってたじゃない。夜這いとは良い度胸だって」

「そうか」

「わー!冗談だって」


刀を抜こうとすると、猿飛は然して慌てた様子もなくヘラリと両手を掲げてみせた。普段からそうだがこの男の考えている事は分からない。読めない。今だって、私の怒りを買う事が容易く想像出来たはずなのに。


「俺様これから任務でさー」

「だからと言って何故私の所に来る」

「今回の仕事結構危なくてねー」

「忍頭ともあろう男が随分弱気だな」

「うん」


うん、という事は弱気だと肯定しているのだろうか。その割に、態度はいつもと何ら変わりない。本当に分からない。何を考えているのか。何を言いたいのか、何をしたいのか。私に、何を伝える為に此処へ来たのか。私に、どうして欲しいのか。


「情けないぞ猿飛。そんな意気でどうする」

「だよねー」

「…今回の件の罰は任務終了後に先延ばししてやる。だから、さっさと任務を終えて帰って来い」

「…ははっ」


アンタらしーや、と猿飛は背を向けた。表情は伺えない。表情が伺えたところでこの男が何を考えているのかなんて分からないのだけど。


「じゃ、俺様そろそろ行くね。処罰は優しめでお願いしますよ」

「良いからさっさと行け」

「はいはい、じゃ」


言葉と共に猿飛は居なくなった。結局のところ、猿飛が何をしたかったのかなんて分からない。私がどうすれば良かったのかも分からない。しかし、待てど暮らせどそれらが分かる日も、猿飛に罰を与える日も、未だ来てはいない。



いずこへ

20090812

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