きぃゃっほぉぉぉぉぉぉおい!!と何とも耳障りな奇声で目が覚めた。嫌な目覚めだ。時計を見れば起床予定の時刻までまだ時間がある。最悪だ。あ、今日は非番だった。もっと最悪じゃねぇか。何て最悪な一日の始まり方なんだ。もう一度眠りに就きたいのは山々だがまずは奇声の真相を確かめなきゃならねぇ。場合によっちゃー切腹だ。副長の睡眠を妨害した罪で。
蒲団から抜け出せば途端にひんやりとした空気が体を包んだ。いつもの事ながら寝起きの体温にこれは堪える。だからと言って蒲団に舞い戻るような軟弱者ではないが、今日はいつもよりやけに冷える気がした。
そんな事を思いつつ煙草に火を着けて縁側に出た俺。目に映ったのは白く染まった景色。通りでいつもより冷えている訳だ。雪が降ってるじゃねぇか。
「きゃっほぉぉお!雪だー!雪ですよ局長ぉ!」
「雪が降ったくらいで一々はしゃぐなんざぁ子供でさァ」
庭には奇声を発しながら裸足で駆け回る女隊士とせっせと雪玉を作る総悟。縁側にはその様子をニコニコと見守る近藤さん。俺からしてみれば楽しそうに雪玉を作る総悟も十分子供に見えるんだが。
「はしゃぐのも良いけど、霜焼けになっちゃうからとりあえず何か履きなさい」
「あ、あはは。私の田舎は冬になると雪が降るので懐かしくって」
つい飛び出しちゃいました。と言う女隊士は言われて初めて裸足だった事に気付いたらしい。呆れる。普通気付くだろうが。こんな女に一日の始まりを最悪なものにされたなんて何だか泣きたくなってきた。
近藤さんも奇声によって起こされたのではないのだろうか。だとしたらもう少し違う所を注意してもらいたいものだ。
「あ、副長も起きたんですか!おはようございます!こんなに寒くちゃ嫌でも早く起きちゃいますよねー」
「おお、トシ。おはよう」
「…あぁ」
お前のせいで起きちまったんだよ!と言ってやりたかったが無邪気な笑顔にはそれを言う事が出来なかった。変わりに溜め息。
女隊士は靴を履いて庭に戻ると今度は総悟と互いに向かって雪玉を投げ始めた。本当に子供か、と言いたくなる。その元気を職務中に発揮してもらいたいものだ。
「トシも起こされたのか」
「あぁ。やっぱり近藤さんもか」
「元気だよなぁ。まったく」
「呑気に構えてないで少しは注意してくれよ」
「いやぁ、最初はそのつもりだったんだが眺めていたら何だか武州に居た頃を思い出してな」
言われてみれば何だか懐かしい気持ちになるような、ならないような。
女隊士は、雪を見て田舎を懐かしく思ったと言っていた。真似て言うなら俺達の場合ははしゃぐ二人を見て、俺達も武州に居た頃はあんな風に毎日笑い合っていたな、そんな時もあったな、と懐かしく思う、という感じだろうか。
「たまにはさ、こういうのも良いんじゃないかと思ってよ。まぁ後で程々にするよう言っとくさ」
「たまには、ってあの二人はいつもあんなんだろうが」
「ハハハッ!それもそうだがな」
甘い。甘いぜ近藤さん。そんなんだからあいつ等が調子に乗るんだ。いつでもどんな時でも好き放題なんだ。と思ってみても、先程まで感じていた苛立ちはいつの間にか消えていて目の前の光景を微笑ましく思う自分が居る。
まぁ、たまにはこんな一日の始まり方も悪くはねぇ、か。
「死ねェェェェエ!!土方ァァァァア!!」
「副長ぉぉぉお!」
瞬間、顔の両サイドを高速の雪玉が過ぎていった。そしてガチャーン。チッ、外したか。と総悟が呟く。って言うかガチャーンって何だ。
恐る恐る振り向けばそこには、粉々になった硝子と当たって砕けた雪、黒い石ころみたいな…石、ころ?
「っテメェェェ等!石仕込みやがったなァァア!!」
「えっ石!?私知らな…総悟がっ!」
「ヤダなー土方さん。ちょっとしたお茶目でさァ」
「お茶目じゃねぇよ!殺る気満々じゃねぇか!」
「ふくちょ、私知らな」
「問答無用だァァア!!」
やっぱりこんな一日の始まり方はもう御免だ。とりあえず、この二人は切腹って事で。
そしていつも通り
日常な感じをやりたかったんですが…
いまいち。
20090211
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