「もう最悪ですよ。高杉さん鬼ですよね悪魔ですよね。こんなに寒いのに買い出しに行けとか拷問なんですけど」

「まぁそう言いなさるな」


喋る度に、息を吐く度に口元が白く色付く。鼻が冷たい。きっと赤くなってしまっている事だろう。とにかく寒い。こんなに寒いのに買い出しに行けと言ってきた高杉さんは本当に鬼だと思う。今日は大晦日という事で鬼兵隊では年越し大宴会が行われているのだけど、高杉さんの飲んでいた酒がなくなったらしく買ってこいと命を受けた。自分で行けよ、と思ったのだけども言えるはずもなく、従わざるを得なかったのだけど、ついでだからあれもこれもと高杉さん以外からも大量の買い物を言い渡されてしまった。一人でそんなに荷物持てる訳ないでしょーが!と発狂しかけた私をなだめつつ「拙者も行くでござる」と一緒に買い出しに出てくれたのは万斉さんだった。


「拷問の上に退け者じゃないですか。皆騒いでる中で一人だけ買い出し行って来いとか」

「晋助が頼み事をするのは信頼している証拠でござる」

「えー…ただのパシリじゃないですかこれは」


私の文句に淡々と受け答えする万斉さんは両手に大量の荷物をぶら下げている。買った荷物のほとんどを持ってくれているのだ。申し訳ないと思う反面、これを全部一人で持たなくてはならなかったのかと思うと溜め息が出た。


「お気に入りなんでござるよ」

「何がですか?」

「そなたが、晋助の」

「私が!?」

「ついでに言うと、拙者もお気に入りでござる」

「えっ…!ちょ」


万斉さんの顔を見上げると口元が笑っていた。グラサンのせいで口元で表情を判断するしかないのだけど、こんな風に優しく笑った万斉さんは初めて見たかもしれない。ぼんやりそんな事を思っていると、その顔が段々と近付いてきた。そして触れる。離れる。それは一瞬の出来事だった。


「このまま二人で年を越したいのは山々でござるが、早く帰らねば晋助に怒られる」

「あ、ちょっと!万斉さんっ」

「早く帰るでござるよ」


いつの間にか全ての荷物を右手に持って、空いた左手で万斉さんは私の右手を引く。お互い、その手が妙に熱いのは気のせいじゃないと思う。私の場合は体全体が熱い気がする。さっきまでとても寒かったのに寒くない。


「褒美くらい、貰ってもよかろう?」

「褒美って…」

「何のメリットもないのに動く程、拙者は良い人ではござらんよ」

「…そうですか」

「良い大晦日でござるなぁ」

「…そうですね」


早く帰る、と言ってる割に歩調はゆっくりだ。高杉さんに怒られたらどうしてくれるんだ。でも、もう少し、右手の温もりを感じて歩くのも悪くない。来年は良い年になりそうだ。



朱に染まる

万斉の口調に撃沈。
20100206

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