けたたましく蝉が鳴いてるのも、カギが開いている裏口から勝手に上がり込むのも、静かな家も、一階を一通り探して二階の部屋に行くのも去年と同じ。むしろ毎年同じ。
「晋ちゃん」
そして、部屋を開ければ眉間に皺を寄せてベッドに寝ている姿も同じ。声をかけるとさらに眉間の皺が深くなるところまで同じ。
「晋ちゃん、起きて。もう昼だよ」
「……あち、ぃ」
「今日は三十度超えるらしいよ」
「う、ぜ」
去年もこんな会話をしたような気がする。会話までも同じだなんてちょっと笑えてくるなー、なんて密かに笑んでいると、何一人で笑ってんだ気持ち悪ぃ奴と聞こえた。何ちゃっかり見ちゃってんの。
「うるさいなぁ。ってか起きてよ。服着てよ。さすがにパンツ一枚はない」
「良いだろーが。あちぃんだよ。誰が見てる訳でもあるめぇ」
「私が見てるでしょ。今。すぐ寝冷えするくせに」
「うるせぇ変態」
変態じゃないもん!どっちかっつーと見せられてる被害者でしょ私!と声を上げれば鼻で笑われた。くそぅ!完全にからかわれている。
「もう!今日のご馳走は晋ちゃんの嫌いな物に変更!」
「あ?」
「ケーキもロシアンルーレット的なものを用意してやる!」
「……」
黙った晋ちゃんが次に何を言うのか見当は付いている。きっと去年も言われたセリフだ。
「もう、祝われるような年でもあるめぇよ…だから」
「ダメ。お母さん張り切ってるから」
「……」
バッサリ遮ってやると晋ちゃんは顔をしかめた。
やっぱり去年と同じだ。だから、に続く言葉はきっと構わなくて良い。遠慮、という意味ではなく。
「大切な日だもん。お祝いしなくちゃ」
「…そんな事してる暇あるなら課題でもしてろや」
「うるさい」
晋ちゃんはいつからか変わってしまった。人と関わる事を避けるようになって笑わなくなって私を突き放すようになった。一人になりたがるようになった。寂しがり屋のくせに。それを知っているから突き放されても晋ちゃんを放っておく事なんて出来なかったのだけど。と言うか単に私が嫌だった。
「また子ちゃんが言ってたよ」
「また子?」
「誕生日を祝おうと誘ったんスけど、当日は先約があるって言われたって」
「…アイツ」
「晋ちゃん」
「…何だよ」
「晋ちゃんの誕生日はずっとずっと私が祝うからね」
「…あぁ」
「晋ちゃんは一人じゃないからね」
「……」
「晋ちゃん」
「何だよ」
「お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがと」
言葉はなく、晋ちゃんは泣きそうな顔で笑った。色んな何かが変わったって晋ちゃんの優しいところと、この日だけは変わらないで。
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高杉誕。
こんなんでごめん。
20090810
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